合衆国憲法とインディアン


 

  アメリカ先住民族(インディアン)と私たち日本人は同じ人種のモンゴリアンである。したがって、イ ンディアンと私たちは、「野生の思考」というか縄文の感性というか、かなり似た神話を持っている。そういう点からすると、わが同胞・インディアンというこ とになるかもしれない。 

 河合隼雄(かわいはやお)はその著『ナバホへの旅 たましいの風景』(2002年・朝日新聞)のな かで、日本の代表的な王朝物語『源氏物語』とイギリスの象徴的な文学であるシェークスピアの作品を比較し、後者においては「殺人」が重要なテーマになって いるのに対し、前者は「密通」がテーマであるという。その本質的な違いは、殺人は「関係を切る」罪であり、密通は「関係を持つ」罪だということである。そ ういう面でいえば、日本とナバホでは同じであり、ともに競争よりも「和」を大事にする。「和」とは関係をもつことである。ヨーロッパはその対極にある。 

 さて、星川淳によれば(『小さな国の大いなる知恵』、ポーラ・アンダーウッド/星川淳、1999 年・翔泳社)、アメリカの建国の父といわれる人たちは、初代から第5代の大統領に到るまで、インディアンのイロコイ族の影響を受けており、アメリカの独立 宣言やその憲法には、イロコイ族の思想が色濃く反映されているという。合衆国憲法制定会議の起草メンバーたちは、「インディアン・クイーン」という居酒屋 で熱い論争を交わしたという。そして、アメリカ建国の足どりはイロコイ族に「手を引かれるようにして」進んだのである。 

 わが国の場合は、歴史と伝統に裏打ちされたところから、天皇という統合の象徴をいただいている。そ ういう歴史と伝統がアメリカにはないが、もちろん歴史と伝統の浅い国でも、それなりの歴史と伝統がある。アメリカの歴史と伝統……それは建国の精神だ。す なわちフロンティア・スピリット。 戦争だけが戦いではない。思想的な戦い、新しい文化を創る戦い、そして文化におけるフロンティア……これもアメリカが 挑戦しなければならない辺境であろう。   

 そのなかから「違いを認める文化」を創りだすことだ。ここにわが国とアメリカの連携の核を見出すこ とができないか? この核を導きだせば、おそらく世界は平和の道を進んでいくことができるだろう。平和への道……それは「違いを認める文化」の創造であ る。私は今後、そういう「違いを認める文化」の創造に取り組む人たちが日米に増えることを願っている。そして、その文化を創る人たちが、「環太平洋の環」 (太平洋に沿った国々)に増えることを願っている。そんな夢を見ながら、アメリカにおける「違いを認める文化」を創造する「環太平洋の環」の思想、あるい は「贈与の思想」といってもいい一つの核として、わが同胞・インディアンのメッセージをここに紹介しておきたい。実に素晴らしい「贈与の思想」である。 

 で は、アメリカインディアンが、「グレートスピリット」と訳されることになったこの 偉大なもの(神ないし祖先)に捧げる、祈りの言葉(「カイエソ バージュ4・・・神の発明」、中沢新一、2003年 月、講談社) に耳を傾けてみることにしよう。これはカナダの五大湖のあた りに暮らしていたオジブア族のものである。 

 

  おお、グレートスピリットよ、私は嵐の中にあなたの声を聞きます。 

  あなたの息吹は、万物に生命を授けています。

  どうか私の言葉を、お聞き届けください。

  あなたが生んだたくさんの子供の一人として、

  私はあなたに心を向けているのです。

  私はこんなに弱く、そして小さい。

  私にはあなたの知恵と力が必要です。

  どうか私が、美しいものの中を歩んでいけますように。

  赤と緋に燃える夕陽の光を、いつも目にすることができますように。 

  あなたが創り出したものを、私の手がていねいに扱うことができますように。 

  いつもあなたの声を聞き取っていられるよう、

  私の耳を研ぎ澄ませていてください。

  あなたが、私たち人間に教え諭したことのすべてと、

  一枚一枚の木の葉や一つ一つの岩に隠していった教えのすべてを、 

  私が間違いなく理解できるよう、私を賢くしてください。

  私に知恵と力をお授けください。

  仲間たちに秀でるためではなく、人間にとっての最大の敵を

  わが手で打ち倒すために。

  汚れない手とまっすぐな眼差しをもって、

  あなたの前に立つことができますように。

  そのときこそ、私の命が夕焼けのように地上より消え去っていくときにも、 

  わが魂はあなたのもとに堂々と立ち返ってゆけるでしょう。