老子の世界化・・・老子に関する新たな研究活動




2015年11月1日

国土政策研究会

会長 岩井國臣



新中国建国後、考古事業は新しい段階に入り、空前の発展をとげ、世界から注目される大きな成果をあげた。これらの成果は、中国共産党と人民政府が考古学を高度に重視し、国が大規模な経済建設を行い、この20年来、改革・開放政策を実行したことと切り離せない。

現在、文献資料ではあいまいな点の多い夏、周、商の三代の歴史に対する考古学研究も際立った進展を見せている。

最近の中国大陸では非常に多くの考古発掘がなされており、続々と報告書が刊行されている。郭店楚簡『老子』といった思想書もあり、北京大学で所蔵されている。これを北京大学竹簡という。中国古代の研究者にとって、まさに垂涎の内容である。 本巻に収録された《老子》は、馬王堆漢墓《老子》甲本・乙本及び郭店楚墓竹簡《老子》に次ぐ4番目の出土簡帛《老子》版本として高く評価されているのである。


日本では、「中国出土文献研究会」というのがあり、熱心に老子の研究をやっている。この研究会は、『郭店楚墓竹簡』の刊行によって郭店楚簡の全容が公開されたのを受け、1998年(平成10年)秋に結成された。その後、「戦国 楚簡研究会」と改称し、さらに、2010年に「中国出土文献研究会」として新たに発足した。現在のメンバーは、湯浅邦弘(大阪大学教授)・福田哲之 (島根大学教授)・竹田健二(島根大学教授)・福田一也(大阪教育大学非常勤講師)・草野友子(京都産業大学特約講師)・中村(金城)未来(大阪大学助 教)、清水洋子(福山大学講師)の7名である。

活動は、国内での定期的な研究会合を主としているが、平成1215年度には、科学研究費補助金の交付を受け、研究会の活動は大きな展開を遂げた。2004年(平成16年)3月には、国際シンポジウム「戦国楚簡と中国思想史研究」を 開催するなど、国際交流も活発に行っている。さらに平成1720年度の基盤研究B「戦国楚簡の総合的研究」に続いて、平成2125年度の基盤研究(B)「戦国楚簡 と先秦思想史の総合的研究」、および平成2630年度の基盤研究(B)「中国新出土文献の思想史的研究」が、科学研究費補助金の交付を受けており、国際学術交流を含む、研究会の飛躍的な発展が期待されている。北京大学との繋がりも深いものがある。



中国・北京大学は、老子に関する新資料(竹簡)の公表を契機として、 20131025日・26日、国際学会を開催した。それに、湯浅邦弘、福田哲之、竹田健二が招待され、研究発表を行った。その代表である湯浅邦弘は、その著「入門老荘思想」(ちくま新書、2014年7月)の中で、「今後、老子を中心とする道家思想の研究が飛躍していくことは確実である。」と言っている。


そして、湯浅邦弘は、その著「入門老荘思想」(ちくま新書、2014年7月)の中で、フランスとドイツにおける老子研究の古さに触れた上で、ミヒャエル・エンデに与えた影響の大きさについて、次のように述べている。すなわち、


『 ドイツ語訳の「荘子」が文学作品の重要なモチーフとなった例として、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」がある。

人間の夢や希望によって支えられている空想の国ファンタジェンの危機を、夢見がちな劣等生バスチアンが、物語の呼びかけに応じて救い、また、数々の苦難の末に現実の世界に復帰し、自ら人間的成長を遂げるという壮大なファンタジーである。

夢の世界を失いつつある現代人に、現実に根ざした大きな夢、夢に支えられた豊かな現実、の重要性をさわやかに呼びかける。物語は、夢(空想世界)と現実とが錯綜しながら進行する。ドイツ語の原本でも、日本の翻訳書でも、現実の部分は赤い文字、夢の部分は青い文字で印刷されている。物語の結末で、青(夢)と赤(現実)の境をさまようバスチアンの姿は、「荘子」斉物論篇(さいぶつろんへん)の「胡蝶(こちょう)の夢」を連想させる。

斉物論篇(さいぶつろんへん)の論理によれば、「是」と「非」とは斉(ひと)しく、「生」と「死」も斉(ひと)しく、さらに「夢」と「覚」も斉(ひと)しくなるのである。人は、目覚めている時の認識が正しく、夢の中の出来事は所詮いつわりにすぎないと考える。しかし、すべてを相対化した荘周は、その果てに、自己の存在についても、確固たる判断を避ける。自分は、本当に荘周なのか。この世のすべては夢ではないのか。こうした境地に至るのである。

「はたしない物語」のバスチアンも、そうした境地を体験したと言えるであろう。そして、この作品の背景には、まさに「荘子」があった。エンデは、「私の絵本」という自著の中で、自らの人生に大きな影響を与えた25章の著述を紹介し、その筆頭に「荘子」の「胡蝶の夢」をあげているのである。もちろん、エンデが読んだのはドイツ語訳の「荘子」であるが、そこには、長い東西文化交流の歴史とヨーロッパによる「シナ学」の伝統があったのである。』・・・と。


私は、老子と荘子をまるめて老子と呼んでいるので、上の文章では荘子を老子と置き換えてご理解いただきたい。老子の思想とは、厳密に言えば「老荘思想」のことである。湯浅邦弘が解説しているように、老子の思想はエンデの思想と通底するものがある。


エンデは単なる童話作家ではない。彼の著作はいわゆる哲学書ではないが、彼は偉大な哲学者でもあり、彼の思想、哲学は今なお世界に大きな影響を与え続けている。地域通貨だけではない。文化論や国家論もそうである。 エンデの「はてしない物語」は世界に愛され幅広い層に読まれ続けている。ということは、「荘子」の「胡蝶の夢」が文芸作品として読まれていることを意味している。このような点からも、老子の研究が日本と中国で大いに進むであろうことを期待したい。老子の研究が日本と中国で大いに進むということは、日中両国の友好親善に資するとともに、老子の世界化が進むということである。このことが、この論文のタイトルを「日中友好親善・・・世界のために」とした所以である。


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