奥山の改修

 

岩井國臣

 

 私は先に,里山のあり方について,焼畑農業をやれないかという私の期待をまず述べた。そのあと、低林林業についての四手井さんの考え方をもとにそのあるべき姿を書いた。里山は,焼畑農業として利用する場合や製炭を農用地の土壌改良材として利用する場合を除いて,低林化を図るべきかもしれない。現在の低林及び低林化された里山は,大いに低林林業の振興を図って,イキイキした山に戻していく。私は,里山と低林の改修の方向を明らかにしたつもりだ。後は奥山のあり方だ。

 私は,下河辺敦(あつし)の流域圏構想にもとづいて国土管理をするのが良いと考えており,山の管理も流域圏構想にもとづいて行うべきだと考えている。まず流域の市町村が管理できるかどうかを考える。私は,かって,大畑原則というものを勉強し,そのことを痛切に感じている。

http://www.kuniomi.gr.jp/togen/iwai/manabuoo.html

 

 流域の市町村で管理できない場合は,都道府県で管理する。都道府県で管理できない場合は,国で管理する。そして,国が管理する場合は,都道府県が応分の費用負担をし,さらにそれに応じて市町村が応分の費用負担をするということでなければならない。都道府県で管理する場合は,当然,市町村が応分の費用負担をする。現実はこういう制度になっていないので,いろいろ工夫が必要だ。具体的な方策としては当然現実を考えねばならないのだが,一応,本来あるべき姿を念頭に置いておくことも必要だと思い,私の考えを申し上げた。これから奥山の管理のあり方を考えていくのだが,まずは今何が問題なのか,その点をはっきりさせたいと思う。

 管理主体の問題はあとで述べるとして,奥山の管理の問題で今私がいちばん困った問題だと思っているのは災害のことだ。現在の林野行政では,災害のことがまったく考えられていないということである。

 四手井さんは著書「森林はモリやハヤシではない(2006年6月10日、ナカニシ出版)」で明確に言っておられるが,スギやヒノキの根は下に張らずに横に張るので災害が起こりやすい。四手井さんの考えは,集中豪雨の被害を少なくするには,深く根を下ろす広葉樹と混ぜるとか,また崩れても山の中だけの被害ですむように,川岸の数百メートル上まではスギやヒノキを伐採して広葉樹に改修していくなどの対策を立てるべきだということである。私は,四手井さんの考えにもとづいてそういう改修を至急実施していくべきだと考える。

 そしてさらには,スギやヒノキの人工林の未間伐区域は早急に間伐を実施すべきであると考えているし、また現在広く行われている切り捨て間伐については、森林の生態系から見て好ましくないのではないかと考えている。これらの点については,四手井さんは本の中で何も言っておられないが,まあ行政的にはいろんな議論があるのであろう。しかし、私は,森林生態系の観点から、まずは専門家の大いなる議論が必要ではないかと思う。四手井さんも言っておられるように,森林は林業のためだけにあるのではない。動物や虫のことも考えねばならないし,災害のことも考えねばならないし、エネルギー資源のことも考えねばならない。林野行政では,是非,そういうことがいっさい考えて欲しい。

 

 さて,管理主体の問題であるが,四手井さんは上記著書の中で,次のように言っておられる。すなわち、

『 西ドイツやスイスなどでは,谷ごとにどういう森をつくるかという林業計画が作られ,民有地の植林計画にも営林署が加わっています。それに比べわが国の場合,70%の民有林に何を植えるかは所有者まかせです。植林には低利の貸し付け金が出ます。植える樹種によって金利を変えるとか,天然更新で森をつくったらどうするとか、その気になれば何らかの方策が立てられるような気がします。』・・・・・と。日本の場合は,たしかに所有者まかせで,維持管理についても多くの所有者は何もせず、森が荒廃の一途を辿っている。大問題ではないか。

 また、,管理主体の問題だけでなく,現在の山はスギやヒノキの人工林が多すぎるという問題がある。四手井さんは上記著書の中で 、次のようにも言っておられる。すなわち、

『 (林野庁は)人工林による森林管理だけを林業と思い込み,ついに1000万ヘクタールという日本の森林面積の40%を超える人工林を造ってしまったが、これは優良造林地を造るということには著しく問題である。日本の森林面積で,人工造林として良い森林ができるのは森林土壌から考えてせいぜい25%までである。』・・・・と。私は,奥山を中心に択伐をすすめ、日本の森林を・・・生態系豊かな・・・縄文時代から連綿と続いてきた・・・本来の森林に戻していかなければならないと思う。私たちは今こそ四手井さんの言っておられることに真剣に耳を傾けなければならない。


ところで、「エコロジカル・ネットワーク」という考えがある。私は,その「エコロジカル・ネットワーク」というものの実現は、わが国にとって最大の課題のひとつだと訴えてきた。

 http://www.kuniomi.gr.jp/river-ing/person/person_200606.html

 


何とか,森林生態系に着眼した本来の山を取り戻したいものである。


四手井さんは上記著書のなかでおっしゃっている。森林とは単なるモリやハヤシではない。頂上までぎっしりと森林に覆われた山のことである。そこには,本来,神がおられるのだ。私は,そういう森林の生態系を人工林で壊してしまうことは神を冒瀆する以外の何ものでもないと思う。早急に奥山を本来の森林に改修しなければならない。本来の森林とは人工林でなく,伐採後も天然更新でなければならない。植林をしてはならないのだ。  問題は伐採の費用とその費用負担の問題だが,私は,現在の間伐に対する助成制度をもとに若干の見直しをすれば良いのではないかと考えている。

 なお,念のため言っておくと,奥山林業のあり方としては,天然更新が原則で手入れはしないのである。管理費が要らないということだ。木が大きくなってくると,もちろん用材としての価値が出てくるので,一山いくらで買いにくる人が出てくる。そのときに売れば良いのである。要するに,奥山は財産として持っていて,買い手がついたときに売れば良いのである。四手井さんの考えによれば,それが本来の奥山林業であって,低林林業とはそもそも考え方が違うべきなのである。もちろん低林林業も,人工更新を行わず,萌芽更新を原則とする。したがって,奥山林業も低林林業も,現在のスギやヒノキの人工林を,択伐を進めながら逐次広葉樹に切り替えていく訳だが,伐採後の人工植林という考えを捨てなければならない。そうでないと森林生態系は本来のものに戻らない。山は良くならない。それが四手井さんの考え方だ。

 

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