田 舎の意識改革
 


  私は先に、 場所(コーラ)は生成の母であるという比喩を紹介し、その上で、『 ジオパークでは、その地域における、地質的、地理的、生態系的、歴史的、文化的な「永 遠的対象」を専門家が語る、 その「永遠的対象」が場所(コーラ)に作用し、さまざまな物語や風俗が生まれる。私は、そういうことでジオパークの演劇性が生じてくると考えている。けだ し、ジオパークでは、プラトンの「コーラ」が強く意識されなければならない。中沢新一が言うように、 コーラという哲学概念のうちに、私たちは神以前のスピリットの活動を感じ取ることができる。』・・・と申し上げた。
  言うまでもなく、生成の母というのは、地域の比喩であり地域の人々のことであって、さまざまな物語や風俗を生み出すのは地域の人々である。したがって、 地質的、地理的、生態系的、歴史的、文化的な「永遠的対象」を語る専門家の語りが地域の人々に理解されるように、仲介者の子供にもわかるようなわかりやす い語りが必要だ。問題は、専門家と仲介者のネットワークである。専門家と仲介者で研究会をつくると良い。時々は、オフラインミーティングというか交流会が 必要だが、ウエブ上のプラットフォームがどうしても必要だろう。
   地質的、地理的、生態系的、歴史的、文化的な「永遠的対象」を語る専門家と地域の人々にわかりやすく語る仲介者の研究会ができると、さまざまな文化活動 が行われるようになるだろう。そういう文化活動が地域の魅力となって、都会からの交流人口が増え、やがて田舎暮らしをする人も徐々に増えていくに違いな い。
 
  松平誠は、その著書「祭りのゆくえ」(2008年3月、中央公論社)の中で、『 20世紀後半、若者がいちばん元気だったのは、1960年、70年の安保 闘争を頂点とする革新の時期である。あれから30余年、現在の若者、とくに男性は勢いがない。政治にも経済にも、社会にも閉塞感が充満し、若年層の未来へ の期待がしぼんでいる。そして、そんな時代だから、若者の手が届く範囲の世界で、何とか生きがいを見つけようとする。その一つのあらわれが、「よさいこい 系」のマツリとなって噴出したのが、今日の状況ではないだろうか。』・・・と述べているが、私もまったくそう思う。ただ、松平誠と私とで感覚が違うかもし れないと思われるのは、私は、今の「よさこい系」のマツリには批判的で、日本の伝統文化の香りのする田舎の祭りというものをもっと重視したい・・・という 点である。
 
  しかし、そういう若者のエネルギーを田舎の祭りに向けることができるかと言われると、大変問題が多いと言わざるを得ない。田舎の祭りには地域のしがらみ強 すぎるからである。松平誠がいうように、地域のしがらみを断ち切って、新たなマツリのなかに未来を見いだそうとする若い力というものは誠に大事である。田 舎は、はたして地域のしがらみを断ち切れるか。そこが大問題なのだが、これからは、都市と農山村との交流を進めない限り限界集落の増大に歯止めがかからな い。したがって、大変むつかしいことだが、若者が自由に活躍できる開放的な田舎をどうしてもつくらなければならない。それには田舎の年寄りの意識改革が必 要だ。
 
  ジオパークでは、その地域における、地質的、地理的、生態系的、歴史的、文化的な「永遠的対象」を専門家が語る。そしてそういう専門家と仲介者の研究会が でき、さまざまな文化活動が行われるようになり、都会からの交流人口が増え、田舎暮らしをする人が徐々にでも増えてくると、自ずと年寄りの意識も変わって いくだろう。つまり、これはとりもなおさず、「永遠的対象」が場所(コーラ)に作用し田舎の人々の意識が変わる・・・ということだ。地球的、開放的になる のである。流動的知性という点では、「スピリット」や「空(くう)」の働きも重要であるが、地球的感覚や開放的感覚が身に付くかどうかということになる と、「永遠的対象」が場所(コーラ)に作用するかどうかということが決め手になるのかもしれない。
 「コーラ」とは、「永遠的対象」、これを大雑把にいえば真実とか真理ということになるが、その働きかけを待っている受容体のことであり、その働きかけが あれば、何か意味のあるものが生成される・・・・、そのような場所のことである。

  私は、ジオパークにおいて、「スピリット」や「空(くう)」もさることながら、プラトンの「コーラ」という哲学概念が地域リーダーに充分理解されなければ ならないと考えている。専門家の行う専門的な語りと仲介者の行うわかりやすい語り、この二つの語りが重要である。この二つの語りがあってはじめて、田舎を 元気にすると同時に都会の若者を元気にすることができる。かかる観点から、私は、ジオパークなくして、今の若者に生き甲斐を与えることはできないと考えて いる。市町村レベルのジオパーク、都道府県レベルのジオパーク、ナショナルレベルのジオパーク、ユネスコレベルのジオパーク、それら多種多様なジオパーク を全国至る所に作ることができれば、日本はいよいよ創造的な国に発展していくし、外国人観光客も大幅に増えるに違いない。

 ジオパークでいちばん大事なキーワードは、プラトンの「コーラ」である。


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