御子柴型石器はどこで始まったか?

 神子柴で出土した黒曜石の尖頭器はいつ頃どこの誰が開発したのか?

 

 

 稲田孝司「遊動する旧石器人・・・先史日本を復元する1」(2001年12月、岩波書店)によれば、神子柴文化については、三つの種類に分類できるという。

 私は、先に述べたように、その三つの種類を、おじいさん、お父さん、孫の時代に喩えて説明した。

 時代的に見て最初のものは、例えば神子柴遺跡であり尖塔器と石斧と石刃素材をともなう。唐沢B遺跡なども同様である。私の喩えで言えばおじいさんの時代である。おじいさんは湧別技法を参考に御子柴型の石器を開発した。

 次の時代のものは、例えば月見野上野1遺跡だが、尖頭器と石斧と湧別技法細石刃石器群をともなうもので、寺尾遺跡などもこの種類に含まれる。私の喩えで言えばお父さんの時代である。お父さんは、黒曜石に頼らなくても在地の岩石で鋭敏な大型尖頭器を作れるよういろいろと研究開発を重ね、尖頭器の槍と細石刃の槍の両方をいろいろと使ってみた。試行錯誤の時代である。

 最後の時代のものは、例えば佐久市下茂内(しももうち)遺跡だが、大型尖頭器を主体とする神子柴石器群で、あきるの市前田耕地遺跡などもこの種類に含まれる。私の喩えで言えば孫の時代である。孫は、在地の岩石にもよるが、できるだけ在地の岩石で尖頭器の槍を作るようにした。それだけ加工技術が発達したということだ。

 

 ところで、御子柴型の時代つまり私の言うおじいさんの時代とはどういう時代であろうか。私は先に、『 こういった御子柴型石斧はよほど熟達した技術がないと作り得ない。より繊細な研摩を可能とした手持ち砥石の開発と磨製技術の開発が行なわれたということだが、湧別技法の流れを組む前処理技術(敲打技術こうだぎじゅつ)があって始めてこういう世界最高の黒曜石加工品が誕生した。』・・・と述べた。 そして、これもそのときに掲載したが、神子柴で出土した尖頭器は、下呂石と玉髄と黒曜石である。

 私は、例えば御子柴遺跡や唐沢B遺跡は、尖頭器と石斧と石刃素材をともなうもので、湧別技法を参考に御子柴型の石器を開発したと述べたが、今ここでは黒曜石に焦点を絞ろう。「神子柴で出土した黒曜石の尖頭器はいつ頃どこの誰が開発したのか?」 現在その点がさっぱりわかっていない。黒曜石七不思議の四つ目の疑問である。この疑問について私なりに考えてみたいと思うが、それにしても石器の加工技術がどのように発達してきたのか、その点につき勉強しなければならない。それを勉強するにもっともふさわしい「場所」がある。その「場所」とは八ヶ岳の東山麓の「野辺山高原」である。

 野辺山と言われてもピンと来ない人が多いと思うがJR小海線は「清里」の先、日本で一番標高の高い鉄道の駅「野辺山駅」付近の高原が「野辺山高原」である。インターネットで調べても「野辺山高原」のことはほとんど判らない。その最大の理由は、「野辺山高原」が南牧村と川上村にまたがっており、総合的な観光案内がひとつもないということである。もうひとつの理由は、現在の観光には文化観光という視点が欠如しており、観光部局の人に文化的な知識が乏しいために、「野辺山高原」を総合的に案内する気運が長野県にも欠如しているからではないか。

 野辺山高原からは、神津島産黒曜石の細石刃石核が出土している。万年前という旧石器時代に、200kmもの距離をおいて、なぜ野辺山の地まではるばると神津島の黒曜石が運ばれたのか。これは最大級のミステリーではないか。さらに、南牧村川上村を含むこの地は旧石器時代から縄文時代にかけての全国的な遺跡の宝庫である。極めて貴重なのである。にもかかわらず、観光案内にはそのようなことは何一つ触れられていない。野辺山高原の何たるかを知るのは、本来、いくつかの本を読まなければならないが、どんな遺跡があるかを手っ取り早く知るには堤隆のホームページが良いと思うので、とりあえずここをクリックして欲しい。

 石器の加工技術がどのように発達してきたのか、それを勉強するため、私は、堤隆の著「遠き狩人たちの八ヶ岳」(1993年9月、ほおずき書籍)を片手に冬の野辺山高原を歩き回った。しかし、今ここでは、「黒曜石の御子柴型尖頭器」に関連して、取り急ぎ「中ツ原遺跡の5B地点」のみ紹介したいと思う。月見野ジオパークに関する一連のページの合間を見ての旅の報告である。今年(平成19年)1月の速報だと御理解いただきたい。野辺山高原の遺跡群にもとづく石器加工技術の変遷については、月見野ジオパークに関する一連のページが終わり次第じっくりと勉強するとしよう。5月の梨の花が咲く頃に、川上村も含めて、もう一度野辺山高原に行きたいものだ。

 

 

 

 

 この写真で、中ツ原は南牧村で、柏垂は川上村である。その境を流れているのが矢出川である。中ツ原6の上の茂みが板橋川で矢出川は板橋川と合流して西川となりやがて千曲川に合流する。中ツ原5Bと中ツ原6の間に茂みがあるが、それが中丿沢である。この中ツ原というところは、矢出川と板橋川と中丿沢が流れて大変水に恵まれている。水に恵まれているということは、日々の生活に便利であるというだけでなく、動物が自然に集まってくるので、食料にも恵まれているということだ。中丿沢の北側の河岸段丘にペンション村がっあって、そこに、堤隆の著「遠き狩人たちの八ヶ岳」に紹介されている「森のファミリー」というペンションがある。とても居心地の良いペンションであるので、この辺を散策するには皆さん方も是非お泊まりいただきたい。それでは、「森のファミリー」を起点として冬の「中ツ原遺跡」を紹介するとしよう。

 

 まずは、「中ツ原遺跡・5B地点」である。御主人に教えられたとおりに歩く。「森のファミリー」を出て駅方向に約100mほど戻り、はじめての農道を左に曲がる。すると中丿沢がある。そこを100mほど行くと比較的大きな農道に出るので、それを左に曲がる。また100mほど行くと左側に畑道があるので、それを曲がる。「森のファミリー」からは左り左りに曲がることになる。中丿沢に突き当たるので、その辺りが「中ツ原遺跡・5B地点」である。沢に下りて、ペンションの方に抜けていく。道はないので、家の裏を行くことになる。

 

以上歩いたところをスライドショウで紹介しよう。

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 翌朝夜明けとともにペンションを出る。10mほど駅方面に行くと農道があるの右に曲がる。50mほど行くと右手に八ヶ岳が見えてくる。朝明けに映えて美しい。さらに50mほど行くとやや大きい農道に出る。右側にかの有名な梨の樹(き)が見える。近づいて写真を撮る。八ヶ岳がバックだ。時間とともに八ヶ岳はモルゲンロートに映えてくる。美しい。あとに戻って、畑の真ん中にある・・・通称ベントウ山という小高い丘に登る。この付近が、「梨の木平」というが、「中ツ原遺跡・6地点」である。切り土がある。その切り土にも石器が出たそうだ。丘に登る。八ヶ岳の眺めがすばらしい。多分、古代人はこの丘から動物の動きを観察していたのだろう。そんな思いに耽っていると、あたかも誇大にタイムスリップしたような感じになってくる。すばらしいひとときである。

 

以上歩いたところをスライドショウで紹介しよう。

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 さて、日本の石器時代の研究は、皆さんも御承知のとおり、「岩宿」から始まる。つまり、当時在野の考古学者であった相沢忠洋によって発見され、その翌年、明治大学と相沢氏が共同で発掘作業を行った結果、数カ所から石器を発見、日本に旧石器時代が存在していたことが証明されたという訳だ。昭和24年のことである。しかし、岩宿発見の20年以上も前の大正年間から、この野辺山では地元の人によってもっと旧石器が大量に採取され続けてきた。馬場平遺跡のことである。馬場平遺跡は、この中ツ原遺跡の東、約5kmの・・・千曲川河畔の河岸段丘にある。行政区画は南牧村の隣の川上村である。

 この馬場平遺跡については、残念ながら明治大学考古学研究室の目に止まるのが遅く、調査のメスが入ったはやっと昭和28年になってからであった。

 その後、野辺山は、矢出川遺跡などが次々と発掘調査され、矢出川細石刃文化という言葉が生じるほど細石刃遺跡の宝庫として有名になっていった。しかし、先ほどの「中ツ原遺跡・5B地点」の調査によって状況が一変する。矢出川細石刃とはまったく性格の異なる、もうひとつの細石刃文化の存在が明らかになったのである。つまり、「中ツ原遺跡・5B地点」の発掘調査では、湧別川技法の流れを組む楔(くさび)形細石刃石核をはじめ、細形細石刃、荒屋型を含む彫刻刀形石器などが出てきたのだ。

 加藤晋平によれば、この荒屋型彫刻形石器は、湧別技法と同じく、そのルーツはバイカル湖の近辺だという。御承知のように、湧別技法はアムール川と繋がっている。今年の夏、アムール川の水源地を見たいと思っているが、荒屋型彫刻形石器がアムール川と繋がっているかどうか判らない。しかし、もし何らかの形で繋がっているとなると、これはもうえらいことである。大変だ!日本文化のルーツはモンゴルということになる。アムール川の水源地はいうまでもなくモンゴルだし、バイカル湖も昔はモンゴルである。

 

 冒頭、黒曜石7不思議のひとつとして、「神子柴で出土した黒曜石の尖頭器はいつ頃どこの誰が開発したのか?」ということを言ったが、私の直感では、この野辺山がそのことと深く関係しているものと思われ、今後ゆっくり勉強してみたい。今日のところは、冬の野辺山を紹介したまでである。

 

 

それでは次は、黒曜石の7不思議

神子柴で出土した黒曜石の尖頭器はいつ頃どこの誰が開発したのか?

です。 

 

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