ビジター産業のすすめ

 

 わが国のアイデンティティーは違いを認める文化にある。これをどのようにして文明にまで高めるかがこれからの課題である。

 第一に、憲法改正にあたって「歴史と伝統・文化の継承」を大きな柱にする。

 第二に、ビジター産業をわが国のリーディング産業に育てなければならない。

 第三に、歴史と伝統・文化にもとづく地域づくりを進めなければならない。

 第四に、さまざまな生物とスピリットの棲息空間を確保するためエコロジカル・ネットワークを整備したい。

 そして最後に、住民主導の地域づくりを進めなければならない。ここでは「劇場国家にっぽん」の姿(かたち)を支える、ビジター産業について触れてみたい。

 わが国は情報技術(IT)の最先端国家をめざそうとしている。今後いろんな取り組みが行われて、IT革命が進展するであろうし、それによって人々のライフスタイルも大きく変革されていくものと思われる。

 ライフスタイルの変革をもたらすのはIT革命だけではない。21世紀は平和の時代であり、コミュニケーションの時代であり、旅の時代である。そして何よりも感性の時代であると思う。その新しい時代の動きに対応し、ライフスタイルも変革せざるをえないであろう。  そこで、新しい国土政策が求められ、コンテンツ産業とビジター産業を意識した新たな地域振興策が必要となってくる。

 コンテンツ産業とは、インターネットで入手する情報を作る産業のこと。各地域の歴史と伝統・文化に基づいて作られるものすべてがその対象となり、地域の人々が幅広く従事できる。またビジター産業とは、いわゆる観光産業のほか、研修や会議、スポーツ大会、グリーンツーリズム、草の根国際交流などを対象とし、その整備からサービス提供までさまざまな職業があり得る。

 それは各産業を育てるための地域振興策であると同時に、それによる利益を積極的に活用する政策でなくてはならない。そのためには各機関においていろんな試みが求められるが、国土交通省としても、その所管事業のなかで何か新しい取り組みを行わなければならない。新時代の二大潮流を意識しているところにこの事業の新鮮味があるし、育成と活用という両義性を有しているところに国家政策上の意義がある。

 その観点から、IT革命とライフスタイルの変革に対応した地域振興策をモデル的に実施する。それによって21世紀における国土づくりのニューフロンティア・多自然居住地域(過疎地域)の整備のあり方を提示したい。

 二〇〇五年に実現されるべき超高速通信の先行的整備、自然環境の保全と整備、リゾートオフィスやクラインガルテン(ドイツで普及しているセカンドハウスつきの市民農園)等の交流施設の整備、ならびに中心都市との連携強化のための施設整備、それらを行うとともに必要な関連公共事業を行う。事業期間はおおむね五年とし、その間にコンテンツ産業及びビジター産業の誘導を図る。なお、関連公共事業についてはPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ。民間資金活用の公共サービス提供方式)のモデル事業として行うよう市町村や都道府県に働きかけるが、それを本事業採択の条件にはしない。なお、現時点で地域要件に合わない地域からの希望があれば、三か年の予備調査を行い、その可能性を探る。

  事業のイメージは次のとおりである。

●河川及び渓流を中心に、魚の上りやすい川づくりや多自然型川づくりなど「エコロジー・ネットワーク(日本生態系協会)」の先行的整備を行う。

●地域における新産業の振興は、コンテンツ産業及びビジター産業を中心とする。そのためには各種交流施設の設置を図るとともに、コンテンツ産業強化のために芸術家や創作者の定住または滞在環境を整備する。地域に関する有益な資料はすべてデータベース化する。

●中心都市との連携を図るため、交通条件の改善などが必要な関連公共施設の整備を行う。

●地域の自然、歴史、文化についてのサイバー博物館、サイバー大学をつくる。この場合、その地方はもとよりわが国の自然、歴史、文化についても充分な学習ができるように配慮する。  なお、このリゾートオフィス等の地域振興モデル事業については、市町村が要望すればどこでも採択するというのではなく、事業効果の観点から「場所」についての厳しい採択要件が必要であろう。その地域要件として、私は次のようなことを考えている。

●高速道路、空港などの交通条件に恵まれていること。

●光ファイバーなどの超高速通信条件に恵まれていること。ただし、現状においてこの条件を満たさない場合、光ファイバーの敷設に関して道路管理、河川管理と連携を図って、すみやかに条件を整えることが可能な地域であること。

●オートキャンプ、渓流釣り、カヌー、レガッタ、登山、ハンティング、ゲレンデスキー、山スキー、歩くスキー、自然歩道、バードウォッチング、サイクリング、ゴルフ、乗馬、ホーストレッキング、ハングライダー、クラインガルテンなど、各種のリゾート環境に恵まれていること。ただし、自然環境には恵まれているものの現状において充分な施設がない場合、それらリゾート施設の実現性の高い整備計画があればいい。

●ビジターに対する地域の受け入れ体制が整っていること。たとえば、地域のサークル活動などにビジターが自由に参加できること。これからのビジターは、たんに観光や見学するだけでなく、訪問地でのさまざまな体験や交流により地域と深い関わりをもつことになるので、そのための地元の受け入れ体制というものが、このモデル事業を成功させるかどうかの重要な鍵を握っている。

●おおむね60分以内のところに中心都市があり、その中心都市に文化施設の集積があること。

●当該市町村及び中心都市の文化施設等の運営管理をPFIの対象事業とする。

 

 私たちは、これからに時代、「対称性社会の知恵」によって価値ある生き方を生きていかなければならない。白と黒、善と悪、都市と田舎、大企業と中小企業・・・・。どちらに偏してもいけない。違いを認めながら共和する心が大事だという古代から連綿と続いている歴史的な知恵を「対称性社会の知恵」と中沢新一は呼んでいる。

 都市と農山村との対立を超えて、互いに自立と尊厳を支えあう関係を作り出さないかぎり、私たちは生きる価値を失わずに生きていくことはできないのではないか。農山村の問題は、決してマイナーな問題ではない。私たちは、今、「都市と農山村との共生」を進めなければならないのである。

 また、これもすでに述べたことだが、日本には「違いを認める文化」というものがある。もし文化面で日本が世界に大きく貢献できれば、世界は変わる。世界平和のための国際貢献・・・・、これこそわが国の最大の課題だが、その基本は国際交流を深めることである。そして、国民参加の国際交流で大事なことは世界の人びとに来てもらうことである。

 これらの観点から、ビジター産業をわが国のリーディング産業に育てることこそ、国土政策上、もっとも重要な課題であると言えるのではないか。

 

註:以上は、最近上梓(じょうし)した拙著「劇場国家にっぽん」の中の一節ですが、私は、この一冊に、私の地域づくりのビジョンを掲げ、日本再生のヒントを挙げてみました。歴史のなかで光明を発する日本民族の魂と知恵。その魅力を紹介することが、日本の未来を切り拓くヒントになる、という衝動に駆られて筆をとりました。今こそ日本民族の魂と知恵の源泉をさぐり、この国のありようを検索すべきとき・・・・その思いに衝き動かされて筆をとった次第であります。この先、日本はどうなるのか? 日本人は何をなすべきか? 見えない未来に光を投げかけるのは、実は、歴史に埋もれた日本民族の魂と知恵ではないだろうか?

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