憲法調査会

世界平和と国際協力

 

              平成15年5月19日

                      参議院議員岩井国臣

 

はじめに

 

 今後イラクはどうなるのか。北朝鮮の問題も深刻だが、当面、イラクの問題は世界最大の問題としてわが国をも大きく揺さぶっている。問題は極めて深刻である。しかし、私は、かねがねもっと深刻なものとして現在の科学文明そのものの問題があると考えてきた。このままいけば人類は終わりを迎えるのではないか。かつて、梅原猛は私にこう語ったことがある。

「西洋文明は戦いの文明である。このままではもはや世界はやっていけない。新しい文明をつくっていかないと人類は滅びる。もちろん、その新しい文明とは私たちの東洋文明ではない。西洋文明と東洋文明の融合のなかから第三の文明が誕生してこなければならない......」と。

 また、世界に誇る哲学者、フランシス・フクヤマも『人間の終わり』(二〇〇二年・ダイヤモンド社)という誠にショッキングな本を書いている。彼はかつて『〈信〉なくば立たず』(三笠書房)という名著を書いた。お父さんが日系二世、お母さんが日本人というアメリカ人だが、そういう血のつながりも気にとめながらフランシス・フクヤマにはかねてから注目してきた。そして最近、そのようなショッキングな本を書いたので、それが梅原猛の言っていることと重なって気になって仕方がなかった。

 私はかつて、「哲学者はさぼっているのではないか」というようなことを何かに書いたことがある。そしてその問いを梅原猛にぶつけたことがある。彼は笑って何も言わなかったが、当時の私は大いに勘違いしていた。日本の哲学者はさぼってなどいなかった。梅原猛もそうだが、中村雄二郎や中沢新一は、今日本を代表するすばらしい哲学者であると思う。そして、そういう哲学者の働きによって、平和な国づくりの道筋が見えてきたように感じている。 

 近い将来、世界のなかで日本を中心に新しい文明の芽が出てくるのではないか。新しい文明とは、ダーウィンが進化論で唱えた弱肉強食の社会ではない。今西錦司が「棲み分け論」で説いたところの共生社会を目指す文明である。それは、「違いを認める文明」と呼んでいいのではないか。

 

 

日米同盟が基軸

 

 私は、国連も国際世論もおろそかにしていいとは決して思わないが、国連とか国際世論というものにあまり大きな期待をかけると、どんでん返しを食う恐れがあると思う。今回のイラク戦争がまさにそうである。アメリカは、国連や国際世論とは違う形でイラク戦争に突入していったではないか。私は今、アメリカが良いとか悪いとかを言っているのではない。善悪はともかくとして、今、世界の歴史を動かしているのはアメリカであり、国連でも国際世論でもない。

 将来、世界規模で平和運動が展開されて、国際世論がいかに声高に平和を叫ぼうとも、そう簡単にアメリカの力の政策が変わるとは思っていない。国連活動も必要だし、平和運動も必要だろう。それはそれで当然やるべきである。しかし、私は、日本のなかにも親米派を増やしていかなければならないし、アメリカのなかにも親日派を増やしていかなければならない。そういう地道な運動でしかアメリカは変わらないと考えている。

 アメリカは自由の国家であるし、また多民族国家でもある。アメリカのなかにはさまざまな人がいて、ハト派というか穏健派も少なくないらしい。世界各国にいる親米派とのネットワークによって、アメリカを変えていこうという動きもあるらしい。そういう人たちはどのようなアメリカを目指しているのか。そこが問題だが、浅海保の著『アメリカ、多数派なき未来』(二〇〇二年・ETT出版)によれば、目標は「価値観の多様化(ダイバーシティー)」だそうだ。いろんな価値観を許容する、いわゆるダイバーシティー国家を理想とする人たちが少なくないということらしい。

  アメリカという国の持つ二面性――すなわち、強いものが生き残るのは「正義」であるというアメリカの傲慢さ、そして「ダイバーシティー」の進展こそが将来の繁栄を約束するものであるとみるアメリカの良識......。この二面性について、私たちはそのまま正しく認識しておかなければならない。 

 

  アメリカは今後も世界をリードしていく力を持っている。軍事的にも経済的もだ。しかし、文化的な面ではどうであろうか。「違いを認める文化」という視点に立てば、世界は日本を必要としているのではないか。日本は、軍事力はない。しかし、経済力ではアメリカに次いで世界をリードする力を持っている。さらに、経済力のほかにも、実は、日本には「違いを認める文化」というものがある。

 もし文化面で日本が世界に大きく貢献できれば、世界は変わる。ここに日米同盟の新たな意義があるのではなかろうか。日米同盟は、日米だけのためではない。私はそう思う。世界のために、日米同盟はより強化されなければならない。世界平和にとって日米同盟がその基軸になるのではなかろうか。

 

 

ビジター産業のすすめ

 

 わが国のアイデンティティーは「違いを認める文化」にある。これをどのようにして文明にまで高めるかがこれからの課題である。

 今後わが国は、世界の人びとに来てもらわなければならない。できるだけ多くの人びとに来てもらって、日本の文化に触れてもらわなければならない。日本の人びとと触れてもらわなければならない。草の根の国際交流を広めていかなければならない。日本人が海外に出かけていくことも必要だが、世界の人びとに日本に来てもらうことも大事なのである。

 また、21世紀は平和の時代であり、コミュニケーションの時代であり、旅の時代である。そして何よりも感性の時代であると思う。その新しい時代の動きに対応し、ライフスタイルも変革せざるをえないであろう。そこで、新しい国土政策が求められ、ビジター産業を意識した新たな地域振興策が必要となってくる。国際交流は特定の人たちだけでやるべきものではない。国際交流は国民参加のもとで進められなければならない。世界平和のための国際貢献・・・・、これこそわが国の最大の課題だが、その基本は国際交流を深めることである。そして、国民参加の国際交流で大事なことは世界の人びとに来てもらうことである。ビジター産業をわが国のリーディング産業に育てることである。私は、この際、ビジター産業というものをわが国のリーディング産業に育てることが国際貢献の大前提であることを強調しておきたい。

 

 

政府開発援助(ODA)

 

 政府開発援助(ODA)について、国民のあいだに大変な不信感が満ちており、ODAについてはいろいろと問題がある。しかし、わが国のこれからの有り様を考えたとき、積極的に国際貢献をしていかなければならないのであって、真に必要なODAは積極的に増やしていかなければならない。

 「顔の見える支援」ということで言えば、いちばん良いのは「草の根無償資金」だ。「草の根無償資金」は現地のニーズが強いものの、対応が難しい小規模の案件に即応できる、いわば「足の速い援助」として、非常に有効だ。しかし現在の草の根無償は海外のNGOが主たる対象であって、日本のNGOはほとんど対象になっていない。日本のNGO対象には、日本NGO支援無償資金協力という制度があるが、予算規模も非常に見劣りするのが実情だ。日本のNGO育成のため、外務省はもとより政府を上げて、総合戦略を持って取り組む必要がある。

 「技術協力」についても総合戦略がない。昨年、8月に閣議決定されたODA大綱では、人材の活用大事だとされているので、今後、いろいろと施策が進むと思うが、必要なのは総合戦略だ。日本の場合、アメリカなどに比較して、人材不足が甚だしいと言われており、今後、日本としては、関係各省の協力を得て、総合戦略のもと、人材育成と開発研究に特段の力を入れるべきだ。

  

 以上、私の思いの一端を申し上げたが、世界平和のための国際貢献・・・・、これこそわが国の最大の課題であり、その基本は日米同盟と基軸として国際交流を深めることである。そのための課題は二つある。ひとつは、国内におけるビジター産業の育成であり、今ひとつは、国民参加によるODAの戦略的展開である。



劇場国家にっぽん ―わが国の姿(かたち)「あるべきようわ」―
Iwai-Kuniomi