温泉に迫る

雲仙地獄

熱湯の川  
熱湯の川が流れる地獄

もうもうたる噴気に前が見えない。鼻につく硫黄の臭い。脱色した粘土質のガレた地面 には黄色いはん点。ピチピチ、ぽこぽこ。絶え間なく聞こえてくるのは地下のガスが湧き出す音だ。高温の源泉が地を伝い、泥炭の淵は透明な湯を水鉄砲のように吐きだしている。ねず み色に重たくねばり泡立つ地獄。ここはキリシタン殉教や噴火災害の歴史を避けては 語れない地でもある。 「ゆで卵あったかいよ〜。かってよ〜」。老婆が粗末な小屋から首だけ出して呼びかける声で、現世にもどる。

賽の河原コンクリの遊歩道は変質しているのに山の斜面 の木々は元気元気、自然パワーの共生だ。 雲仙は701年、女人禁制の霊山として開かれ西の高野山として栄えた。その山号「温泉山」をとって「温泉ONSEN」=UNZENと書き表され、後に「雲仙」となる。

地獄の向かいは「児遊の弥陀」(こあそびのみだ)。あれもこれもと祭り供えた「賽の河原」で、おばあさんが無心に祈り続けている。道路の脇の大きな煙突が盛んに湯煙を上げているが、聞けばこの路の下も地獄。そのパワーを逃すために付けられているのだそうだ。

 

緑に抱かれたリゾート
元禄時代、ヨーロッパにはじめて雲仙・小浜温泉の存在と医療効果 を紹介したのがオランダ商館医ケンペル。明治に入ると九州各地の外国人宣教師らが避暑に利用し始め、洋人風呂という一人用の箱風呂も登場した。上海まで48キロ圏内。口コミや、関連船会社の宣伝で、明治中頃には香港、南洋方面 やロシアからの諸外国人が集う一昔の雲仙大保養地となる。人々はゴルフや草競馬、和弓、テニス、水泳を楽しみ、「雲仙娯楽館」でダンスパーティーに興じた。昭和2年(1928)には外人客が2万人を越え日本人宿泊者を上回る。ヘレンケラー女史も雲仙を訪れたひとり。ほとばしる井泉を手の平に受けた瞬間、WATERという言葉と共に三重苦の世界から解放された人だった。水の力を思う。2004年の今年。雲仙国際テニス大会は78回目を迎える。

【温泉と地獄の関係】

地獄のエネルギーの源は橘湾の海底のマグマ溜まりだと考えられている。発生した高温高圧のガスが岩盤の割れ目を高温熱水となりながら上昇し、標高700mの雲仙地表部に達するのは熱水の沸騰に伴って生じたガスだけ。雲仙温泉はこのガスとまわりの山からの地下水が交じり合って生み出される。
万緑の中の赤い屋根 ゆび温泉 湯せんぺい
緑に映える赤い屋根。どことなくあか抜けた町。 アチチ、お指様専用露天風呂は自噴する源泉の掛け流し。 焼きたて湯せんぺい。チェコの温泉にもスパ・ワッフルがあるとか。
新湯 古湯 温泉神社
新湯。ザアザアの雨に負けず硫黄のにおいとモウモウの湯煙。 古湯(湯の里共同浴場)。素朴な建物、出入りするのは地元の人。 島原半島に点在する温泉神社。総本山はここです。
島原市
島原温泉観光協会

 

橘湾に面した小浜温泉。かつて源泉は浜辺の岩の間や海中にあり、干潮時に足湯を使う程度だったが江戸時代に入り「子どもや老人の病に特効あり」と世間に広まった。 西南の役の傷病兵が敵味方区別なくこの温泉で看護を受けたことから、日本赤十字発祥の地ともいわれる。明治28年(1895)長崎にバルチック艦隊入港。水兵たちが休息をとったも小浜の湯だ。その4年後新たな温泉が噴出、小浜は湯量 多く泉温が高いことで全国に知られるようになった。しかし大戦による塩不足で昭和20年(1945)から 15年間、製塩の「熱源」として前代未聞の湯量(2億4千万m3)が消費され、源泉の自噴停止や海水混入量 の増加などが発生。折からの温泉法施行による意識の高まりと地 元の尽力で、現在一日の噴出量1,500トン。湧き出る源泉温度100度は日本一を誇る。

【海と小浜温泉の関係】

源泉は、橘湾岸を走る小浜断層に添った幅200m、南北1.5Kmの狭い海岸伝いに密集している。源泉深度は55〜184m。熱源は千々石カルデラ下部のマグマ溜りで、これに鉱水や雲仙岳の地下水、又海岸地域の地下水系はどこかで必ず海洋水と接しているので海水などが混入して湧き出していると想定される。
湯煙の町 温泉たまご 湯が流れる
湯煙の町とは、こういうところをいうんだなあ。 田中荘の源泉から無尽蔵に湧く源泉で茹でた玉 子。 海に並行した水路に旅館から出た湯が滝のように流れ出る
小浜港 海上温泉 浜の湯
小浜港は魚の宝庫でもある。

海上露天風呂「波の湯・茜」。300円で気分は海の中。

町営の浜の湯は明るい内から下足箱満杯。いい湯だ。

冷泉なぜ? この小浜温泉に冷たい温泉があった!

透明な水だが、まるで沸き立っているかのように泡が吹き出ている。口に含めば苦くすっぱく鉄の味が。通 称「炭酸泉・刈水鉱泉」。高温の小浜温泉の山側に自然湧出する25度の「含硫化水素炭酸泉」だ。小浜と同じ鉱泉に由来するが、途中から異なった上昇経路を経て湧き出し、雲仙岳の地下水で急冷されて遊離したガス成分だけが地下水に溶け自噴していると考えられている。皮膚病によく効くのだそうだ。明治末に旅館ができ、加熱して利用していたが、昭和に入って燃料経費などで立ち行かなくなり廃業したという。今は噴出口だけが砂地に取り残されている。サイダーに似ているというので泊り客に飲料水として利用されていたとか。通 りかかった奥さんに「飲む事もありますか?」と問うたら、しかめっつらをして首を振って見せた。

雲仙市
小浜温泉観光協会
小浜町ショップモビリティ情報センター ぽかぽか法人
参考文献: 長崎県衛生公害研究所報「温泉誌T 雲仙温泉」(昭和57年度論文集)
      長崎県衛生公害研究所報「温泉誌U 小浜温泉」(昭和62年度論文集) 注)PDFで閲覧可能

温泉入門

川や湧水を追って3年。今回はいよいよ「温泉水脈」に挑戦!と勇んだはいいが、法の定義や応用問題、真っ暗な地底の水脈事情に「はてな?」の続出。にわか勉強を開始した。

「ふつうの地下水と温泉・鉱泉の違いを知ろう」

まずは最初に温泉を定義した「温泉法」から。
■「温泉法」(1948年制定)
地下から湧出する温水、鉱水や水蒸気、その他のガス(一部天然ガスを除く)で、
1、温泉源(自然湧出口やボーリング井戸の孔口)から採取される時の温度が摂氏25度以上
2、または、定められた物質(19の化学物質)のうち、いずれかひとつを規定量 以上含む

つづいては、「鉱泉分析法指針」。
昔から普通の水と色や味、臭いが違ったり治癒・薬治効果を持つ湧水を「鉱泉」と呼んでいたが、あらためて「鉱泉」を常水と区別 し定義したもの。
■「鉱泉分析法指針」(環境省自然環境局)
地中から湧出する温水および鉱水の泉水で、
1、多量の固形物質、またはガス状物質、もしくは特殊な物質を含む
2、あるいは泉温が、源泉周囲の年平均気温より常に著しく高い
規定されている温度や、物質と含有量は 「温泉法」と同じ。
鉱泉は泉温で4つに分類され、25度未満は「冷鉱泉」、25度以上は「低温泉・温泉・ 高温泉」となる。

●温泉と鉱泉を区別する必要なし
水蒸気やガスは鉱泉ではなく温泉だということ以外、鉱泉がまず基本にあって温泉が 定義されていると考えてよさそうだ。いずれにしても、湧出する時の温度が25℃以上であれば、真水でも無条件で温泉ということになる。


注1)環境庁「鉱泉分析法指針」(旧:厚生省「衛生検査指針鉱泉(温泉)分析法」)
注2)「日本鉱泉誌」(1889年初出版)では鉱泉を温度で温泉と冷泉にわけていたが、冷泉の言葉が普及せずに鉱泉と呼ばれるようになった。


温泉法第2条別 表/定められた物質一覧(愛知県衛生研究所ホームページより)
鉱泉分析法指針(環境省自然環境局 平成14年4月)

【温泉を掘削するには?】
乱開発や利権闘争を避けるため、新しい温泉の掘削、動力装置の設置(ポンプなど)は計画段階から温泉審議会(自然環境保全審議会の温泉部会)の審議を受け、都道府県知事の許可を得る必要がある。
【温泉と認定してもらうには?】
温泉の所有権は土地所有者にあるが、温泉として認められるには環境庁が指定した都道府県の衛生研究所や民間機関の成分分析を受けなければならない。その上で「鉱泉分析法指針」を指針に泉質や適応症・禁忌症が決まり、はじめて『温泉分析表』を掲げることができる。

温泉掘削等及び利用の手続き(静岡市 )
環境省温泉法に関する手続 (環境省)
長崎県衛生公害研究所

「現代の温泉が抱えている問題を考える」

地下深度が増せば岩盤温度が高くなる原理を利用し、ボーリングで地中1,500メート ルからでも「25度」以上の地下温水を汲み上げることが可能になった現代。都会にも新温泉が続々登場。ニーズに応え、大量 な湯量を確保するための強制ポンプアップや循環設備を入れた温泉も増えた。雨水や雪が地下1000mまで2500年かけて浸透してできるといわれる「深層地下水」ふくめ、温泉も水循環のサイクルの一部。「水収支」 を崩しては成り立たない。全国の総湧出量は、2000年3月末をピークに低下し、自然湧出泉の枯渇、溶存物質の減少や泉質変化が各地で報告されているそうだ。

一方、私たちが温泉判断のよすがにする『温泉分析表』は「源泉湧出口」で行った検 査が基。有効期限もないから、浴槽の中身が循環・殺菌・ろ過・加熱・水増で温泉で なくなっても脱衣場に掲げられている。大型アミューズメント施設にまで持ち込まれ る温泉信仰、「大きな浴槽、露天風呂がなきゃいや」というわがままが有限の温泉資 源を追い詰めているのではあるまいか。温泉好きを自称する以上ホンモノの温泉事情 をしっかり勉強しなくっちゃ!

第3回温泉の保護と利用に関する懇談会 環境省自然環境局 懇談のページ 資料2−2 深澤喜延委員 [PDF 21KB]

もっとQ&A

ガスも温泉。その正体は?
火山温泉地帯の噴気孔からは水蒸気と共に高温のガスが噴出している。これに地下水等を混ぜて熱交換をすれば温泉水の誕生。箱根大湧谷などが利用している造成方法だ。

湧水や井戸が、実は温泉ってことアリ?
認定を受けるかは別として、含有成分が規定量に達していれば温泉(25度以下なら冷鉱泉)。もちろん、冷鉱泉はりっぱな温泉。

単純温泉ってなーに
日本で二番目に多い泉質。「鉱泉分析法指針」にある含有成分の量 が一定量には満たないが、泉源の温度は25度以上。薄い分刺激が少ないので子どもも安心、リハビリにも向く。成分が全く無いとしたらガッカリだが。

地下で温泉と湧水水脈が混じる可能性は?
温泉脈が地下水と混じり合っていた調査例があったが、地下で温泉がどのように貯え られているか未解明の部分が多いらしい。「源泉が地下水と混じり」の記述は衛生研 究所の報告書で見つけたが、にわか勉強ゆえ「アリ」と言い切れず。

ミネラル成分たっぷりの海水を沸かしたら温泉?
だめ。温泉法による「地下から湧出する」という条件を満たしていない。温度はあっても内実がない温泉よりずっと効果 がありそうだけどね。

高温の温泉はどうやって温度を下げるのかな
源泉100%では源泉をさましてうめる、湯守りがその日の天候や噴出量 を判断して水を加えず温度調節する他、湯量にあわせた浴槽サイズなど工夫がいる。浴場のホース から出ているのが湧水や川の水か、水道水かは是非知りたいところ。温度水位 自動調 節付濾過装置というのもある。成分の濃い強食塩泉など水で割ったほうがよい源泉も ある。

飲める源泉の条件は?
鮮度のいい源泉であること、保健所からの飲泉許可を得ていること。湯を温め直している循環式は、もちろん衛生上飲用不可。中には成分が強くて飲泉に適さない源泉も。

入湯税ってなんなの?
宿や施設が自治体にかわって入浴客から徴収し納める市町村税で、全国平均大人で一人150円。宿泊料金に含まれていたり別 請求だったりするが、実は日帰り温泉でも徴収されていることアリ。2001年度の税収総額は240億7,000万円!

すっかり勉強させてもらいました・納得のおすすめサイト

温泉技術者が、かみくだいて語ってくれる
「温泉の科学/やませみさんの特別 寄稿」(関東周辺立ち寄り温泉みしゅらん)

37年間の公務員生活、分析官の打ち明け話 「温泉談義」 
Kuroyan's Home Page インターネット随想

温泉開拓事業をサポートする立場から、辛口で親身な
「温泉の定義と開発手順」温浴施設に関連する法規集(お湯ビジネス・KKコスモクリエーション)

これで、温泉。鉱泉違いになっとく
温泉の基礎知識(温泉学の入門) (ちょいとひと浴び ・街の温泉めぐり)

つい読みふけってしまった
(社)日本温泉協会
日本温泉気候物理医学会
立ち寄り温泉みしゅらん


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