シジミ漁イメージ シジミ漁イメージ 漁業と人々
シジミ漁イメージ しじみ漁の風景

涸沼のシジミ漁を同行体験!

舟に立ってシジミをかく写真
シジミかきの道具
の写真


シジミかき歴50年、70歳になる有田義一(よしいち)さんの舟に乗せていただく。漁場に 着くと船外機を止めて風下に向って立ち、潮に流され、背中を風で押されながら爪を前に向け たカッターでシジミをかいていく。 どれだけシジミが入ったかは水底から棒を伝わってくる「シャリンシャリン」という音でわかるのだという。風に流されたらまた元の位 置に戻って作業を繰り返す。雨はまだしも、風が強いと舟が流されてしまうので漁にならない。毎日変化する潮の流れにさからってカッターを立てた時など腰ががたがたになるそうだ。

漁協の規約で径12ミリ以下は採れないので、水面に差し上げた籠をよくゆすって網目から落 とす。日曜祭日の漁は御法度。時間は午前7時から11時まで、12月から4月までが午前8時から昼まで。1日の漁獲量 は100キロまでと、資源を守るための定めは厳しい。

静かな笑顔でのんびり作業を続けていると見えた有田さん。ちょっとカッターを持たせてもらう。作業は舟の揺れに調子を合わせ、自分の体重、カッターの重みしなりを利用する感じか?しかしようやく上がってきた籠は水面 を離れようもしない。「楽な仕事を覚えた人はやらないよ」を実感。 水に落ちたり、漁に夢中になって舟が浸水しているのに気づかず折角採ったシジミを捨てるはめになったり。「いっちょまえ」になるのは大変だ。

護岸整備してから新しい土が流れ込まず川底がえぐられ、潮の香りが消えてしまった。魚は ダメになったな。と有田さん。漁場は深いところは10メートルもある。老人は若者にはかな わない。とはいえ、川底は浅い深い、砂地やドロなど千変万化。潮、風、温度を読んで漁場 を決めるには経験がものをいう。さすがだ、制限時間前には規定の100キロぴたりとなった。

奥さんのりつさんが待つ船着場を目指す。早速、川べりの洗浄機始動。ブルッ、ガタン、 ブルブル。川から吸い上げた水で洗われたシジミが、りつさんの前に落ちる。最近見慣れな い貝が混じるしゴミもある。馴れた手がより分け、12番と捕獲者場番号のついた袋に納まるまで1時間あまり。シジミは直接取りに来る問屋さんが各地の市場に出荷。料亭などが買っていく。今日も豊漁。「お父さんは心がけがいいから」とりつさんが義一さんを見やった。

「二人がき」
西風が吹く冬のつらい漁

夫婦の笑顔
12月〜3月の寒中はりつさんも舟に乗る。冬場はシジミが深く潜るので、二人で乗り込んでとも先から50mほどのロープが付いた錨を下ろし義一さんがカッターをおさえる。りつさん がロープを巻き上げながらその長さの範囲で方向や速度を調整し舟を移動させる漁法。夫婦の呼吸合ったればこその「二人がき」。

【りつさんからの聞き語り】
44年前に結婚。「やるほかない」とシジミを量る升を作ってもらって自転車で行商に出た。 46歳で車の免許を取り、ひたちなか市まで販路が広がった。最近大病を患ったのだが、同じ涸沼産でも味が全然違うと待ってくれている人がいるからと、見計らっては行商を続ける。「シジミは 冷凍出来るしむしろ美味しさが増す。冷たい思いをすると旨みや成分が増すんだ」。つちかった説得力に人生哲学が重なる。「行商のおかげで、人生勉強ができたし、人を見る直観力も養われた」との言葉に思わずドッキリ。

 

シジミ豆知識  ●涸沼で採れるのはヤマトシジミ
ヤマトシジミは水温23度、塩分0.7%以上でないと産卵しない。涸沼は単位 面積当たり 日本一の漁獲量を誇る。腰が高くて色はカラスの濡れ羽色。淡水だとお尻が白くなり、下が砂利だと貝の色がアカっぽくなるとか。同じ涸沼産でも、河床の状態や流れの強弱で味や持ちが違うので、採った場所で値が変わるのだそうだ。

●戦後生まれたシジミの需要
二束三文だったシジミに価値が出たのは戦後のこと。健康食ブームなどで需要が確立したのはごく最近だ。漁場の水質汚染や埋め立てなどで、国内漁獲量 は1970年代の3 割に激減し、今や輸入シジミが国産を上回る。涸沼はじめ宍道湖、十三湖産は市民の食卓からほど遠くなるばかり。

●涸沼人のヤマトシジミ自慢
カルシウムや鉄などのミネラル成分を含み、骨粗鬆症予防や貧血の改善にも効果 があるといわれるシジミ。「肝臓が悪い人なんてここにはいないの」「ふっくらシコシコ歯ごたえがあってとにかく旨い」「食べれば元気が出て、お肌もつやつや!」「おとうさんがかいたのが一番」みんな信念がある。

●シジミが水質浄化をになう!
湖沼の生きものの食物連鎖を支えているのが植物プランクトン。これが異常繁殖するとアオコなどが発生し透明度が下がってしまう。ヤマトシジミはプランクトンを餌として水と共にろ過摂食すると同時に、プランクトンを増殖させる栄養塩(窒素やリン)も取り込んくれる。シジミの体内を流れる水量 はシジミ1gに対し一時間で約 0.2リットルといわれ、宍道湖にたとえると全湖水を約3日間でろ過してしまうのだそうだ。

 

漁協長に聞く「レジャーとの共存と今後の涸沼のために」

漁協長櫻井さん「大」がつくのは、涸沼周辺の17地区7つの漁業協同組合が昭和23年ひとつになって 誕生した組合ゆえだ。地域の事情や川派・沼派で意見が異なることもあるが、成り 立っているのは「約束事は必ずを守る」という組合員たちの努力あってこそ、と櫻井 組合長。シジミ漁で生計が立つこともあって、約300人の組合員中専業漁業者が20〜 30人。それ以外は半農半業や一般で、サラリーマンもいる。80歳代はざらで60歳代は小僧っ子という構成年齢だが、リストラなどの影響で若手が増えているそうだ。アウトドア関係者に も組合員になってもらっているのは、漁場や漁協のシステムを理解・把握してもらうためで、 共存がキーワード。水上バイクも許可している。

今年2004年は豊作だが、市場価格はブランドものの宍道湖産の半額くらいだ。シジミの出荷 に漁協は直接関与していないが、漁の今後を視野に茨城産シジミの売出しを 図って勉強会を行っている。平成13年からは、沼に数箇所しかない産卵場所に密集して産卵 されるシジミを採集し、まんべんなくまき直す「移動放流」を実験中だ。この 2、3年は、密漁が頭痛の種。ここがダメなら明日は青森十三湖へ出没といった、全国レベルの情報網をもつヤーさんがらみのグループが夜中にやって来て短時間で500キロ以上も根こそ ぎ持って行ってしまう。巡視を強化し行政や警察の力を借りて撲滅を目指す。

漁が生計なので、水質保全への取り組みは当然で次世代につなげる必要があると、子 どもたちを巻き込んで毎年1月と8月に「一斉清掃」を行っている。ゴミ持ち帰り運動 のPRを兼ねた活動だが、機会があれば回数を増やす。観光客も釣師もマナーが悪く、 家電リサイクル法以来不法投棄も増えているのだとか。前回は水の中 からの回収を含めコンバイン2台分をクリーンアップした。

 

ウナギ漁と涸沼産天然物の旨さ

漁師の田崎さん 「昔の涸沼は遠浅でカバやアシが生い茂り、そのまま飲める位水がきれいだった。ハマグリ位 あるシジミもいたっけ」と懐かしむ田崎稔さんは、昭和7年涸 沼川上流の長岡生まれ。小さい時から魚獲りが好きで、農機具会社につとめたが脱サラして自然相手の仕事を選んだ。組合に入って30年、農業もやりながらウナギの他にボラ、マルタ、コイ、フナな どを獲る。数年前訪ねて来た東京麻布「野田岩」※の主人が、田崎さんのウナギをすっかり気 に入ってしまった。以来「是非欲しい」と注文が入るのだが、気候の影響か、このところ不漁でウナギ 獲りは「舟の油代にもならない」そうだ。

たかっぽ漁 透明度が2mもあった頃は、闇夜をカーバイトで照らしヤスで突いたこともあったウナギだ が、今はもっぱら「たかっぽ漁」。古竹を1m位に切り、全ての節を取り去って紐を通 した仕掛けを10本位づつ、沼に刺した竹ざおにぶる下 げる。竹筒には自分の 印がつけてあって仕掛ける場所は自由。夕方に仕掛けると夜の間にウナギがもぐりこ むので朝引き上げる。その時は少しの振動でも逃げてしまうので慎重に。「魚は水の中にいたらほんとずるいし賢いわ」。油断・安心させて獲ろうという田崎さんと魚の知恵くらべだ。「約50本のたかっぽを上げるのに30分ちょっくらだっぺ」「そりゃー 早い」と漁業長が感心する。一回で30キロ位の収穫。1キロが約5〜6匹だから、約160匹。上限で1000本も仕掛けることがあるそうだ。 現在の漁協によるウナギの稚魚 放流は50キロ程度。しかも養殖はしていないから涸沼産ウナギはまず天然物といえる。天然 は頭が小さく、口が紅色をしていると教わる。「涸沼には塩が入っているのでなんといっても 獲れるモノの味が違う」。海とつながっている沼のウナギが一番な のだ。

※「野田岩」:創業160年。天然物にこだわる江戸前鰻の名店。

 

舟大工さんの技を見る

松村さんと木の舟 松村俊男さんは、ノコギリでへさきを切り出している真っ最中だった。図面 もなくガシガシと美しい舟を形作っていく。何十年も水を走る実用の舟が、こうやっておおら かに作られていくのにあっけにとられた。50年前、船大工だったお父さんの仕事を 見よう見まねで覚えた松村さんだが、耐用年数が長い舟をいくら作っても生活できないと、タ クシー会社を始めた。ところがこの景気だ。3年前から片手間に舟つくりを 再開した。35年のブランクを経て、「よく走る、かっこうがいい」といわれた松村の舟が 蘇った。今や10艘ほどが注文待ちだ。ドライバーとして支えてきた奥さんも、まさかお父さんにこんな特技があるとは知らなかった。「惚れ直しますね」と聞いたら 「たいしたもんだと思うねえ」と照れくさそう。

月に2艘ぶつ(作る)のが限度という舟の素材は杉だ。長さは約7.2m。幅が1.2〜3 m。涸沼は波が少ないので喫水は浅く、38〜41cm。注文主の体重や体力、年齢、漁場 の潮や流れも考慮し、横移動がスムーズにいくよう五感を駆使して「いい按配につくる」。 「そり」が大事なのだそうだ。いかにシジミがかけるかが舟の条件だ。木舟だけが持つ独自の しなりとゆれを利用してカッターを使いこなすので、実際、乗っている舟で収穫が違うという。出来上がったら、グラス繊維(FRP)を別 業者に委託してコーティングする。この作業代が15万円。計50万円。これで40年はもつ。

注文主に納める時は「建てまえ」同様、安全豊漁祈願をする。塩を四方に置き、お米と日本酒 を供えて「たかまがはらにこの舟を浮かべ、かしこみかしこみ御願いもうす。航海安全豊漁成就」と唱えるのだそうだ。涸沼で漁をしている舟は現在250槽あまり。新規につくれば、船外機を買った店の証明書と共に漁船登録が必要だ。許可を得た舟にはナンバープレートがつけられ、5年に一度車検と似た検定がある。


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