夕景   涸沼の宿と御亭主
大空の影を映して広浦の波間をわたる月ぞさやけき
水戸八景のひとつ広浦にある「広浦屋」が今宵の宿。
広浦屋看板 民宿・貸舟「広浦屋」
ボリューム満点のあったかい夕食がうれしい

主人自らがとって来て調理する涸沼の旬の魚貝が自慢だ。待ちかねた夕食はすべて手づくり、素材で勝負の味だった。聞けばお米も自家製、野菜は親戚 がつくる無農薬だそうだ。大椀にヤマトシジミが山盛り入った味噌汁を平らげる。隣の部屋は宴たけなわ。奥さんが焼きたての蒲焼を運んできた。あわあわと口にとける涸沼の天然ウナギ。満腹のはずがもう箸が止まらない・・・。

夫婦のよさが宿のよさ

経営者の長洲秀吉さん良子さんご夫婦は、先代の秀雄さんが米もとれない90戸余りの漁師町だった昭和初頭の広浦で開業した民宿を受け継いだ。結婚した昭和40年のことだ。今は年中無休、年間宿泊客数2000人の宿で、法要や宴会など地元の利用も多い。漁もあれば泊り客や釣客の世話、共同経営の屋形船や広浦公園管理の仕事もあるので、時に人手を頼み家族で分担してこなしている。うらやましいような「二人で一人」のご夫婦は、揃って曲がったことが大嫌いで面 倒見がよい。採算よりもお客の喜ぶ顔が最優先という人柄ゆえだろう。この不景気で地元に13軒あった飲食店が2軒になったというが、宣伝もいらないほどの繁盛ぶりだ。

涸沼の良さを知ってほしい

涸沼シジミのラベル
▲パソコンで自作の
「涸沼」ラベル

まずは涸沼を売り込むこと

毎日漁に出る長洲さんには、涸沼は恵みを与えてくれる本当に貴重な沼だという実感がある。それを伝えたいと涸沼産を明記した手製のラベルを貼ったヤマトシジミを東京や千葉の市場へ、九州・立石養鰻へは関東では涸沼だけで獲れるウナギの稚魚(クロコ)を出荷している。 稚魚が別の産地名になって出回るのは口惜しいけれど、今は涸沼の宣伝だ。地域では、交流促進をはかった「広浦振興会」、ふれあいの場として「ひろうら直売所あいあい」を立ち上げた。シジミの真空パック販売は長洲会長のアイディアだ。

昔の広浦の写真
▲涸沼干拓事業以前の広浦風景。
砂洲が長く伸びて「常陸の天橋立」 とも称された。

つのる危機感

漁具が進歩した今も漁獲があるのは、みんなで乱獲を戒めてきた汽水湖だからこそ。しかし資源は無限ではない。雑排水の流入、干拓、治水対策などで広大な藻場(「もく」・水生植物))と棚が支えていた環境が変化し、富栄養化によるアオコの発生、透明度や水質の低下、魚の減少などが起こっている。今の内に何とかしなくてはだめだと、長洲さんは危機感をつのらせる。

今、漁民としてできること

日々各々の漁獲量だけを基準に、一喜一憂していては手遅れになると長洲さん。シジミの場合、卸業者が各漁業者から直接買いつけているので、正確な総漁獲高も掴めていないのが実情だ。これを漁協が一括して扱えば漁の実態が把握でき、対策の道も拓ける。漁協を中心に組合員が一丸となって営業や出荷を行えば、消費者の信頼も得やすく、涸沼ブランドの確立も夢ではない。その結果 、価格が安定すれば漁にも心にもゆとりが生まれ、昔の涸沼を取り戻そうとする連携がもっと強くなるに違いない。

長州さんと屋形船ひぬまもうひとつの顔・環境ボランティア

自然を受け継ぐ一漁師として、長洲さんには「おれの沼」は「みんなの沼」で、漁民だけのものではないという思いがある。人と自然がどう共生していくかなのだ。もう沼や川で水遊びもしない地元の子ども達だが、「ふるさとに誇りをもって成長してほしい」と、卒業を控えた広浦小学校の6年生を屋形船に乗せ、沼の自然を体感させる無料招待 を始めて9年目になる。
涸沼を知ってもらうためならばと、研究者や大学生の論文作成、調査研究の支援には労を惜しまない。 寝食の面倒までみた学生のウナギ稚魚の論文が研究分野に大きく貢献したのはいい思い出だ。大学や小学校、自治体にとって長洲さんは「涸沼の語りべ」でもある。シジミやウナギの生育観察、舟からの涸沼見学、水質調査やシジミかき体験など、涸沼の全体像がつかめる工夫いっぱいの体験型プログラムが、涸沼ファンを育てる。

 

おかみさん
 
シジミ
 
酢の物
 
ウナギの蒲焼き
 
広浦屋の台所から

【ヤマトシジミ】
産卵前の土用シジミ、身のしまった冬の寒シジミが旬といわれる。大変生命力の強い貝で、真夏は別 として採りたてならザルなどに入れて冷蔵庫に保存すれば1週間はもつのだそうだ。ただし洗ったりしてはいけない。水につけてドロをはかせるのは、食べると決まってから。二時間もつければ充分でそれ以上では味が出てしまう。

「むき身の取り方」
手間が大変と、考えたこともなかったむき身だが、新鮮な涸沼シジミならではの方法があった。鍋にお湯を煮立てて塩を加え、シジミを入れてかきまぜているとプリプリとした身だけが浮き上がってくるので網じゃくしですくい取る。真っ白になったゆで汁は混じりっけなしのシジミエキス。冷凍保存しておき、シジミ料理の旨みダシにつかう。滋養強壮には薄めて飲む。

「むき身レシピ」
・三杯酢で調味した「キュウリもみとのあえ物」(写 真)
・鍋に油をしいてむき身を炒りつけ味噌、砂糖、七味で味付けした保存食「味噌いため」
・むき身だけの天ぷら
・先のゆで汁にほんの少し醤油を足しただけでお米とむき身を炊き上げる「シジミご飯」

「ちょっと変わったシジミ料理」
油で葱のみじん切りと唐辛子を炒め、殻つきシジミを加えて少量の酒を加える。殻が開いたら醤油をひと垂らし。冷めても美味しい「シジミ南蛮」のできあがり。

【うなぎ】
蒲焼のタレは長年継ぎ足してコクと深みを出した特製のもの(写 真)。親指くらいの太さのものを開いて一本丸ごと白焼きや天ぷらにしたものは軽くて美味しいと大好評。

【ホンジラウオ】 
花見の頃ともなると宿の前の岸にも寄ってくるので、お客も長靴を履いて網ですくうという。正真正銘のシラウオは天ぷらやおどり食いで。

 


 


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