川のおじさん川を語る
その三「地域の風土をどう語るか」

 

 さる5月の末、島根県は掛合(かけや)【1】で故竹下登先生【2】の銅像除幕式が行なわれた。私も出席させていただいたが、往年の優しげなまなざしをたたえた銅像が掛合の道の駅のやや奥まったところに建っており、懐かしさがひとしきりであった【3】。銅像の台座には、「島根に生まれ、島根に育ち、やがて島根の土となる」という先生の言葉が刻まれていて、先生のふるさとを思う心がひしひしと伝わってきた。私は、あらためてふるさと創成のあらたな挑戦をしなければならないと覚悟した次第である。

 中国山地は、全国の中でいちばん最初に過疎化が始まり、いちばん先鋭的に過疎化が進行した地域である。だからこそ、竹下登先生は、選挙に当っての第一声をそのように言ったのであろう。全国的に過疎化はいよいよ深刻である。今一度私たちは、ふるさとの山を想い、ふるさとの川を想い、ふるさとの人びとやその魂を想い、「地域力」【4】を強化するため新たな挑戦をしなければならない。

竹下登先生像と 石見町の雲海
竹下登先生の銅像の前で   中国山地石見町の雲海(写 真提供:国土交通省浜田河川国道事務所)

 財政改革にしても行政改革にしても、それらはまさに政治の問題であり行政の問題である。政治や行政でしっかり取り組んでもらわねばならない。しかし、私がいう「リージョナルコンプレックス」【5】は、地域の人びとを主体とした組織であって、政治や行政が主導すべきものではない。「リージョナルコンプレックス」はあくまでも地域の自主的な活動体であり、地域の人びとが主役であるが、それをなし得るのが流域圏であり、流域活動である。そして、その経済的な部分を支えるのが「地域通貨」であるが、私は、地域の人びとと一緒になって、その「地域通貨」の問題と取り組みたいと考えている。「地域通貨」なくして過疎地域の活性化など夢の又夢である。「地域通貨」は、現在いろいろな地域で見られるものの、本格的なものはまだひとつもない。「地域力」を強化するためには、現在の市場経済に加え、「地域通貨」による贈与経済がその足らざるところを補なう・・・ということが絶対的な条件だ【6】

 これからは、自然再認識の時代である。自然に対する正しい認識というかトータルとしての認識が必要だと思う。自然の恵みのみならず、自然の恐ろしさについても認識されなければならない。知水、潤水、敬水【7】ということを提唱している人もいるし、敬水思想の重要性を説く学者もいる。今後、わが国民が持つべき自然観は、アニミズム【8】によるだけでなく、マナイズム【9】によるものが重要であろう。水についても正にそうで、自然の恵みとしての水、自然の恐ろしさとしての水、それが水の本質であり、そういった水そのものについて国民の関心が高まっていけば、流域活動はやりやすい。異常気象のつづく昨今、流域についての国民の意識は高まってきた。早急に、流域活動を活性化して、流域圏における「リージョナルコンプレックス」をつくっていかなければならない。

江の川は、中国地方随一の大河である。宮本常一【10】のまな弟子であった山崎禅雄さん【11】が言っているが、江の川は、かの有名な四万十川に比較して、まさるともけっして劣らない。大河としての風格を持っているというのだ。その大河のほとりに羽須美【12】というところがある。そこに、一昨年、江の川流域の「リージョナルコンプレックス」ができた。羽須美には、数年前から、山崎禅雄さんの話を聞く「我聞塾」【13】というのができているが、そのメンバーである安藤周治さんや小田博之さんらが中心となって「江の川流域会議」をつくったという訳だ。メンバーは、江の川を考える会・NPO古材バンクの会・NPOひろしまね・三次市観光協会・3チャンS(さんちゃんす)村・広島自然観察会・神楽芸術グループ・八次まちづくり・江の川流域インストラクター連絡会・NPO市民参画推進センター・比婆科学教育振興会・三次市・国土交通省三次国道河川事務所・建設技術研究所などである【14】。今後の活動が注目される。

合流
江の川
三次市で合流する江の川、馬洗川、西城川(写 真提供:国土交通省河川局)   日本海に注ぐ江の川(写 真提供:国土交通省浜田河川国道事務所)

安藤周治さんは、「過疎を逆手に取る会」【15】の会長もされ、全国的な活動をしてきておられるので、過疎地域の活性化に取り組む人たちで安藤さんを知らぬ 人はいないほど有名な人であるが、その住まいは江の川のほとりにある旧作木村港(みなと)というところにあり、お菓子屋さんをしておられる【16】。まさに「二足の草鞋」を履いておられ、私の得難い同志である。最近では、中田實(愛知江南短期大学学長)さんが会長の「コミュニティ政策学会」【17】のメンバーにもなられ、さらに活動の範囲を拡げておられるので、川づくりの全国的なリーダーとしても大きな期待が寄せられている。

 小田博之さん【18】は、衆議院議員秘書等を経験した後、1978年に島根県にUターン。村役場に勤め、農業振興、企画財政、都市交流担当し、民間活動では1983年に江の川流域会議を設立。1989年、自主退職して村内の仲間と有限会社ノア企画【19】を設立。2004年に江の川流域会議を改組し、NPO法人ひろしまね【20】を設立、事務局長に就任。江の川の流域である広島・島根の県境を超えて、交流活動・地域づくりをすすめているが、上述の「江の川流域会議」を再スタートさせた【21】。山崎禅雄さんのいちばん弟子であり、彼に言わせると、最近では、宮本常一の孫弟子といってもいいぐらいにモノを見る目ができてきたらしい。小田博之さんも私の得難い同志である。

安藤氏 小田市
安藤周治さん   小田博之さん

 中国地方の河川は、それぞれが、その水源地域がひどい過疎で、地域崩壊の危機に直面 している。その典型が江の川であり、「江の川流域会議」の活動が、千代川や吉井川や太田川など各流域の活性化に大きな影響を与えるに違いない。私は、それを強く期待したい。流域圏の活性化によって、中国山地の過疎化【22】に歯止めがかかれば、全国の過疎問題に大きな光が見えてくる。その鍵を握っているのが、安藤周治さんや小田博之さんらの「江の川流域会議」である。流域というのは、地域の「歴史と伝統・文化」を共有し、まあ言うなればひとつの運命共同体である。国土の管理は、流域の管理が基本である。したがって、私は、自然再認識の時代において、流域圏というものがもっとも基本的な地域概念ではないかと考えている【23】。「江の川流域会議」の活躍を心から願わずにはおられない。

(河川プレビューNo.135 秋季号 河川新風土記4.より転載)

季刊「河川レビュー」

 


【1.島根県雲南市掛合町】
雲南市役所
 
【2.竹下登先生】
  1924年掛合村生まれ。元衆議院議員(14期)、第74代内閣総理大臣。調整型政治で幅広い人脈を築き消費税導入や、「ふるさと創生事業」などを実施。
 
3.掛合の道の駅に建つ銅像】
  除幕式は2006年5月。同日の「偲ぶ会」に国内外から政財界トップ、文化人ら約750人が集った。
掛合の里 (かけやのさと/国土交通省中国地方整備局WEBサイト内)
 
【4.地域力】
  地域社会においてその構成員が自律的、かつ協働して地域問題の解決し、地域の価値を創造していく力。
川のおじさんが考える真の「地域力」
行政改革 ―その緊急課題・「地域力」について―
 
【5.リージョナルコンプレックス】
川のおじさんが説く「リージョナルコンプレックスについて」
地域構造と「空」・・・その2
 
【6.川のおじさん「地域通貨の全て」】
愛の通貨
 
【7.知水、潤水、敬水(ちすい、じゅんすい、けいすい)】
  水を知り水に学ぶ。水が与えてくれる生活や心の潤い(日常にある水路や疎水。噴水なども)。水への畏敬。
 
【8.アニミズム】
環境用語「アニミズム」(EICネットWEBサイト内)
 
【9.マナイズム】
  アニミズムに先行したともいわれる、超自然的呪力の観念をもつ宗教の原初形態。
 
【10.宮本常一】
宮本常一情報サイト(周防大島郷土大学)
 
【11.山崎禅雄さんを訪ねて】
川のおじさん日記「島根 ― 旅の原点を求めて」
 
【12.羽須美(はすみ)】
  島根県邑智郡(おおちぐん)羽須美村は2004年、3町合併で邑智郡邑南(おうなん)町となった。
邑南町役場
 
【13.我聞塾】
  江の川における、宮本常一民俗学をベースにした地域観察学習会。)
 
【14.「江の川流域会議」結成メンバー】
  1983年結成。現在に至る経過の中で、行政や企業の職員社員らもオブザーバーとして参加するようになっている。各組織参考サイトは、このページの末尾に。
 
【15.安藤さんと「過疎を逆手に取る会」】
ふるさとづくり大賞「過疎を逆手にとる会会長 安藤周治」((財)あしたの日本を創る協会出版「ふるさとづくり'91」 WEB版より)
安藤さんインタビュー「NPO活動で新しい社会のしくみをつくろう」((財)あしたの日本を創る協会WEBサイト内)
 
【16.旧作木村港のお菓子屋さん】
  現・広島県三次(みよし)市作木町の「柏屋安藤製菓舗」。
 
【17.コミュニティ政策学会】
コミュニティ政策学会(愛知学泉大学コミュニティ政策研究所内)
 
【18.小田博之さん】
江の川の小田さんからのおたより
goriver.jp「まるごと江の川」トップページから、「小田博之の江の川遊び歩き妙」へ!
 
【19.有限会社ノア企画】
  旧羽須美村に設立。企画から設計監理、運営支援まで行う地域計画コンサルタント。カヌー教室主催、アウトドアー関連用品販売等も行う。江の川流域総合研究会、水の探検隊実行本部などの事務局も兼任。
 
【20.NPO法人ひろしまね】
http://www.hsnt.jp/
 
【21.「江の川流域会議」の再スタート】
  2003年、流域会議メンバーの呼びかけで、流域の民間活動団体の横断的連携を目指した連絡組織「江の川連絡会」が再編成された
江の川連絡会情報交換の場「電子江の川サロン」
 
【22.中国山地―中国新聞解説委員と川のおじさんの対談】
地域づくりの哲学と実践
 
【23.川のおじさん、10年以上前から「流域」提言】
流域の再認識について
 
「江の川流域会議」結成メンバー関連サイト
 

江の川を考える会
NPO法人ひろしまね
三次市観光協会
NPO法人 古材バンクの会
(平成17年、「古材文化の会」と改称)
●3チャンS村(有限会社シー・シー・五十WEBサイト
●神楽芸術グループ (NPO法人 広島神楽芸術研究所サイト )
●江の川インストラクター連絡会 (江の川文化圏会議サイト)
NPO法人 市民参画推進センター
●比婆科学教育振興会(参考記事/中国新聞WEBサイト内) 

オブザーバー
三次市
国土交通省三次国道河川事務所
株式会社建設技術研究所

   

 

 

 

   
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