タイトル: 141 . Re: カール・セーガン 科学と悪霊を語る

お名前: 岩井國臣

投稿日: 4/28(10:49)


 

第4章  宇宙人

 

(1)空中の奇妙なものに気づくと、興奮してまともな批判能力を失ってしまう人がいるけれど

も、これはあまりよい目撃者とはいえない。この分野は、詐欺師や山師にとってはねらい目だっ

たと思えるふしがある。実際、UFO写真には、偽造だとわかっているものがたくさんある。

小さな模型を細い糸で吊して写したものもあるし、二重露出もよく使われた。あるフットボー

ルの試合中に、数千人がUFOを目撃するするという事件もあったが、これは学内の友愛会のい

たずらだった。ボール紙一枚とロウソク、それとドライクリーニングのビニール袋を材料に、ち

ゃちな熱気球を作ったのである。

 

(2)墜落した円盤(と、そろった歯列をもつ小さな宇宙人)の話も、まったくのでっちあげだ

った。芸能誌『ヴァラエティ』のコラムニスト、フランク・スカリーは、友人の石油業者から聞

いた話としてこれを伝えた。この話をテーマにしたスカリーの本『UFOの内幕』は、一九五〇

年のベストセラーになった。話はざっと次のようなものだ。金星から来たとみられる十六体の宇

宙人の死体(どれも身長一メートル弱)が、墜落した三機の円盤のうちの一機から発見された。

宇宙人語とみられる絵文字で書かれた小冊子も復元されたが、軍はこの事件を隠蔽した……。

もしそれが本当だとすれば、大変なことである。

 

(3)でっちあげ一味の一人はサイラス・ニュートンという名で、電波を使って金や石油の鉱脈

を探っているという男だった。もう一人は「ジー博士」という謎めいた人物だったが、のちにゲ

バウアーという名であることが判明した。ニュートンは、UFOから持ち出したという装置をこ

しらえたり、円盤のクローズアップ写真を撮ったりしたが、詳しい調査はさせなかった。そこで

一人の懐疑派が乗り込み、宇宙人が作ったという品を失敬して分析に出したところ、どこの台所

にでもあるような鍋と同じアルミ材でできていることがわかったのだ。

 

(4)もちだされる証拠はどうも頼りなさそうにみえた。そしてたいていは、単なる思い込みや

悪ふざけ、幻覚や自然現象の取り違えにすぎないことがわかったのだ。それに加えて、願望や恐

怖の表れだったこともあれば、注目されたい、名声を得たい、富を得たいといった欲望のなせる

わざだったりもした。なんてこった、と私は思った。

 

 その後私は幸運にも、ほかの惑星に探査機を送り込んで生命はないかと探ったり、遠い星の惑

星に生まれた文明(それがあったとして)から、電波信号が送られてはいないかと耳を澄ました

りする仕事にかかわってきた。“これは”と思う瞬間も何度かあった。しかし、現在のところ、

地球以外の場所に生命が存在するという説得力のある証拠はまだない。

 

(1)ミステリーサークル現象とは、小麦やオート麦や大麦、ときには菜種の畑で、作物が円形

になぎ倒され(後年にはもっと複雑な絵文字も登場した)、それを農民や通行人が発見するとい

うものだ。一九七〇年代なかばにこの現象が出はじめたころは、描かれるのは単純な円だった。

ところが年を追うごとに図形は複雑化し、一九八〇年代後半から九〇年代前半になると、イギ

リス南部をはじめとする田園地帯一帯に、巨大な幾何学模様が描かれるようになる。 なかには

フットボール競技場ほどの大きさのものまであった。収穫前の穀物畑に描かれたこうした図形に

は、円と円が接しているものもあれば、円が軸でつながっているものや、円から平行線が伸びて

いるもの、それに、昆虫のような形をしたものもあった。なかには大きな円を中心として、まわ

りに四つの小円が対称的に配置された図形もあった。−これはどう見ても、空飛ぶ円盤の本体と

着地用の四本の脚の跡だ。

 

 いたずら者のしわざなのだろうか? そんなことはありえない、というのが大方の意見だった

。ミステリサークルは何百もあるし、真夜中のわずか一、二時間のうちに、それも法外なスケー

ルで描かれることもある。いたずら者が出入りした形跡もない。なにより、いったい何が楽しく

てこんな悪ふざけをやらかすというのか。

 

(2)この問題は英国国会でも取り上げられた。王室は特別相談役として、かつて国防省の主任

科学顧問だったソーリー・ズッカーマン卿の助力を求めた。 幽霊のしわざだという説もあった

し、マルタのテンプル騎士団のような秘密結社が関与しているのではないかという言う人もいた

。悪魔崇拝が絡んでいるとの説も囁かれたし、国防省が隠蔽工作をしているとの噂もあった。

 

ミステリーサークルの数は数千にものぼり、アメリカ、カナダ、ブルガリア、ハンガリー、日本

、オランダにも飛び火した。

 

私の知り合いのある科学者は、これらの図形は非常にエレガントな数学が隠されているので、

人類よりすぐれた知性のしわざとしか考えられないと書いてよこした。実際、各人各様のミステ

リーサークル研究者も、この点についてはほぼ合意していた。つまり、最近の模様はあまりにも

複雑かつエレガントで、人間などにできることではないというのだ。ましてや、生半可ないたず

ら者のしわざとは思えない。高度な知性をもった地球外生命が存在することは、まずまちがいな

いだろう……。

 

(3)一九九一年、ダグ・バウアーとデイブ・コーリーというサウサンプトン出身の二人組が

、十五年にわたって畑の上に絵文字を描き続けていたと名乗り出た。バウアーとコーリーがこの

いたずらを思い立ったのは、いきつけのパブ「パーシー・ホップス」 で黒ビールを傾けていた

ときのことだった。UFO話には以前から楽しませてもらっていたし、ここらでUFO信者たち

をかついでやろうと思ったというのだ。最初のサークルは、重い鉄の棒で小麦をなぎ倒して作っ

た。この棒は、バウアーが経営する額縁店の裏口に、防犯用に掛けてあったものだ。やがて二人

は、厚板とロープを使うようになる。最初の作品はほんの数分で完成したが、いたずらの常習犯

であると同時に本職の画家でもあった二人は、もっとすばらしい作品を作りたくなった。そして

、だんだんと難度の高い図形を設計製作するようになったのである。

 

(4)ほどなくして、さまざまなミステリーサークルが南イングランドをはじめ各地にできはじ

めた。物真似をする輩が現れたのだ。バウアーとコーリーは、こういった連中に呼びかけるメッ

セージを麦畑に刻んだ。「われわれは孤独ではない」と。これさえも、一部では正真正銘の宇宙

人からのメッセージとみなされた。

 

 しかしバウアーもコーリーも、どんどんエスカレートする作業に次第にうんざりしはじめた。

体は丈夫だとはいえ、今や二人とも六十歳を超え、見知らぬ農民の畑で人目を気にしながら深夜

の奇襲作戦をこなすには少々年を取りすぎていた。もしかすると、彼らの作品を写真に撮っては

宇宙人がやったと言い立てるだけで、金と名声を手に入れる連中に嫌気がさしたのかもしれない

。そして、もうこれ以上黙っていたら、何を言っても信じてもらえなくなるのではないかと心配

になったという。

 そんなわけで、彼らはすべてを白状した。

 

(5)ところがマスコミは、ほんの一時彼らの告白を取り上げただけだった。ミステリーサーク

ル研究家たちは、二人に向かって「ムキになるな」とさえ言ったのだ。なるほど告白などすれば

、不思議な出来事に思いをめぐらせる喜びを多くの人から奪うことになるだろう。

 その後もミステリーサークルを作る輩は後を絶たない。しかしそのほとんどは、お粗末で取る

に足りない出来ばえだ。概していたずらの告白というものは、その話題で盛り上がっているうち

は影が薄くなるものである。穀物畑に描かれた絵文字の話や、それがUFOと関係があるらしい

という話を知っている人は多い。だがそうした人たちも、バウアーとコーリーの名前や、すべて

はいたずらだったことなどは思い出せないのである。

 

(6)ジャーナリストのジム・シュナーベルは、なかなか有益な事実を本にしている。(『ラウ

ンド・イン・サークルズ』ペンギン・ブックス。一九九四年)。ここに書いたことは、多くの点

で彼の本を参考にさせてもらった。シュナーベルは早くからミステリーサークル研究に手を染め

、最後には自分でいくつかの絵文字を作ることに成功した。(シュナーベルは、木製の厚板より

も庭用のローラーを好んで用いた。また、人の足で穂を踏みならすだけでも結構うまくいくこと

を発見した。)だが、シュナーベルの本はあまり売れなかった(ある書評子は「ここ数年読んだ

本のなかでいちばん面白い」と書いたが)。悪霊ならば売れもするが、ただのいたずらでは面白

くもないというわけだ。