タイトル: 143 . Re: カール・セーガン 科学と悪霊を語る

お名前: 岩井國臣

投稿日: 5/10(14:15)


 

第5章  欺瞞と秘密主義

 

 UFO元年ともいうべき一九四七年以来、UFOの目撃報告は優に百万件を超えているという

のに、異星からの宇宙船としか考えられないほど奇妙で、しかも誤認でもでっちあげでも妄想で

もなさそうな信憑性のある報告は、ただの一つもないのである。これでは、「なんてこった」と

言いたくもなる。

 

 UFO話にころりとだまされる風潮は、政府への不信を養分にして蔓延する。そうした不審は

、公共の福祉と「国家の安全」とが拮抗するなかで、ごく自然に生まれるものだ。政府が国民に

嘘をついたり、だんまりを決め込むのは毎度のことである。そうであってみれば、UFOに関す

るかぎり隠蔽工作などできっこないとか、政府が国民に対して重要な情報を隠したりするはずが

ないなどと言ったところで誰も納得しないだろう。隠蔽の理由としよく挙げられるのは世界規模

のパニックを防ぐためとか、政府内でも確信が得られていないから、というものだ。

 

 一九四七年のこと、ニューメキシコ州ロズウェル付近に、一機ないし数機の空飛ぶ円盤らしき

ものが墜落したというので大騒ぎになる事件があった。最初のころの報告や新聞写真などを見る

と、残骸は高高度気球のものと考えるのがごく自然だと思われる。ところが、それから何十年も

たった今、地域住民が覚えていることといえば、地球のものとは思えない物質が散らばっていた

ことや、謎めいた象形文字があったこと、口外したらひどい目にあうぞと軍関係者に脅されたこ

と、そして、今では語りぐさになっている例の物語なのである(宇宙人の死体や装置類が飛行機

に積み込まれて、ライト・パターソン空軍基地の航空資材軍団に向かったという話)。

 

 空軍が最も懸念していたのは、UFOがロシアから来たものではないかということだった。ロ

シアがなぜわざわざアメリカ上空で空飛ぶ円盤のテスト飛行をするのかは謎だが、その理由とし

て以下の四つが提案された。

 

(1)戦時には原子爆弾が決定的武器になるというアメリカの自信を砕くため。

(2)偵察用の写真を撮影するため。

(3)アメリカの防空力をテストするため。

(4)戦略爆撃に備えてアメリカ領空を熟知しておくため。今では、ロシア製のUFOなど昔も

   今もなかったことがわかっている。

 

 一九九四年、ニューメキシコ州選出の下院議員に突き上げをくらった空軍長官と国防総省の命

により、この件についての報告書が作成された。これにより、ロズウェルで見つかった残骸は、

極秘の気球実験計画「プロジェクト・モーガル」のものであることが確認された。

 

 UFOがさかんに目撃された時期は、ちょうど核兵器の輸送手段が飛行機からミサイルに切り

替わった時期と重なっている。そのころ技術面で大きな課題だったのは核ミサイルが大気圏に再

突入する際に、ノーズコーンが燃え尽きてしまわないようにすることだった(小惑星や彗星など

は、上空を飛んでいるうちに燃え尽きてしまう)。燃え尽きるかどうかは、ノーズコーンの素材

や形状、そして入射角によって変わってくる。ミサイルの再突入のようすを見れば(ミサイル発

射のようすでもよく、こちらの方が見ごたえはある)、戦略上きわめて重要なこうした技術の進

歩がわかるし、逆に設計の欠点までもわかってしまうのだ。敵はその情報から、打つべき対抗手

段を考えるだろう。してみれば、当局がこの問題に神経をとがらすのも無理はないのである。

 

 当然、軍の関係者に箝口令が敷かれることもあったはずだ。また、目撃した当初はどうという

こともなかったものが、いきなりトップ・シークレットに成り上がることもあっただろう。空軍

で将校や民間の科学者がのちにそれを思い返して、政府がUFO隠蔽工作をしたのだと思ったと

しても不思議はない。UFOの正体がノーズコ−ンだったなら、当局としてはそうした措置を取

らざるをえなかっただろう。

 

 次にスプーフィング(欺腕手段による接触)を考えてみよう。米ソが戦略的に敵対していたこ

ろは、防空力が十分かどうかは大問題だった。

 

 敵の防衛力を調べるうえで確実な方法はただ一つ、スプーフィングをしてみることだ。つまり

、その国の領空を侵犯し、相手が気づくまでにどれくらい時間がかかるかをみるのである。かつ

てアメリカは、ソ連の防空力を試すのによくこの手を使ったものだった。

 

 一九五〇年代から六〇年代にかけて、アメリカは最新式のレーダー防衛システムを配備して、

東西の沿岸、わけても北の侵入路(ソ連の爆撃機やミサイルが入ってくる可能性が最も高い)を

厳重に固めた。ところが、防備の手薄な地域があったのだ。地理的にはずっと問題の多い南の侵

入路に、早期警戒システムが整っていなかったのである。もちろんこのことは、仮想敵国にとっ

ては重大な情報だ。それを聞いてすぐにも考えるのは、スプーフィングをしてみることだろう。

敵の高性能機がカリブ海から急上昇してアメリカの領空に侵入し、たとえばミシシッピ川に沿っ

て数百キロ飛んで、アメリカの防空レーダーに見つかったら急いで逃げ変える。

 

 スプーフィングをされれば、目視やレーダーでそれを見つけた軍人や民間人からさまざまな報

告が寄せられるだろう。ところが、報告されたような航空機はないということになる。空軍も民

間の航空機会社も、うちの機ではないと大まじめに言う。空軍にしてみれば、いくら南部方面の

早期警戒システムに金を出せと議会に迫っていたとはいえ、ソ連やキューバの戦闘機がいつのま

にかニューオーリンズはおろかメンフィスまで侵入していたなどとは、とうてい認めるわけには

いかないはずだ。

 

 この場合にも、やはり高度な専門調査チームは存在するだろうし、空軍や民間の目撃者は口を

つぐむよう命じられるだろう。そして、現実に資料隠しが行われるだろう。しかしこのだんまり

作戦を、宇宙人の乗り物と結びつけて考える必要はないのである。こんな恥さらしな事態につい

ては、国防総省はたとえ何十年経とうとも決して口を開かないだろう。国防総省のお家の事情と

UFOの謎解きとのあいだには、潜在的な利害の対立があるのだ。

 

 以上のようなことを考え合わせれば、UFO報告やそれについての分析、および多量のファイ

ルのなかに、勘定を払わされる側の国民には知らされていないものがあっても驚くことはない。

だが、今や冷戦も集結した。ミサイルや気球の技術はおおむね時代遅れになるか公開されるかし

ているし、恥をかいた連中もすでに一線を退いている。むしろ軍事的観点から見ていちばんまず

いのは、国防の名の下に、国民をだましたり惑わしたりする例をまた一つ増やすことだろう。今

こそファイルの機密扱いを解除し、見たい人なら誰でもみられるようにすべきである。

 

 陰謀気質と秘密主義体質をかねそなえる組織として、教訓的な例をもう一つ挙げておこう。国

家安全保障局(NSA)がそれである。この組織は、友好国か敵国かを問わず、電話や無線など

による通信を傍受しているばかりか、世界中の手紙を盗み読みしている。NSAが一日に傍受す

る通信の量はたいへんなものだ。

 

 もちろん、盗み聞きされて嬉しい国などあるはずもなく、NSAと各国防諜部門とのあいだで

は、傍受手段と対抗手段の開発競争がくり広げられている。

 これだけでも十分ややこしいところに、情報公開法(FOIA)が追い打ちをかける。NSA

はUFOに関するあらゆる情報を、要求に応じて開示しなければならないのだ。法律上、開示要

求には応えなければならないが、「情報源と入手経路」を明かすわけにはいかない。

 

 こうした事情から、NSAが傍受した通信をFOIAに従って開示するとなると、たいてい一

ページのうち三分の一ほどは削除されることになる。「……低空に一機のUFOが飛んでいたと

報告……」のような断片のあと、一ページが三分の二も塗りつぶされていることもある。

 

 しかし、UFO陰謀説を唱える人が情報開示を求めたときに、もしも何十ページもの資料がほ

どんど黒く塗りつぶされていたら何と思うだろうか。NSAはUFOに関する幅広い情報をもち

ながら、あくまで口をつぐむつもりだろうと思うのではないだろうか。

 

 以前、何人かのNSA職員からこんな話を聞いたことがある。傍受内容にUFOが出てくるケ

ースとしてよくあるのは、軍機や民間機が「UFOを見た」と無線連絡している場合だという。

つまり、そのあたりに「未確認の物体」が飛んでいたと連絡しているわけだ。その未確認物体は

、偵察やスプーフィングをしている米軍機のこともあるかもしれない。しかし、たいていはもっ

とずっとありきたりのもので、それについての説明もいずれ傍受されるという。

 

 この程度のことでUFO隠蔽工作を疑われたのでは、NSAはあらゆる陰謀に加担しているこ

とにされてしまうだろう。

 

 UFO信者には、誇大妄想を抱きがちなだけでなく、秘密主義体質に対して“うぶ”なところ

のある人が少なくない。『ニューヨーク・タイムズ』紙の元記者ハワード・ブラムの本『アウト

ゼア』にも、そうした特徴が見て取れる。

 

 どんなに創意工夫をこらしても、袋小路にぶつかってしまうのだ。私はしだいに、この一件は

私の手の届かないところに、まるでじらすようにぶらさげられているのだと思うようになった。

 

 なぜなのだ?

 積もり積もった疑念の頂点に、このどうしようもない疑問が不吉に乗っかっている。なぜ当局

のスポークスマンや研究所は、よってたかって私を妨害しようとするのだろう? 一度は真実だ

った話が、次に嘘になるのはなぜなのか? この岩のような秘密主義はいったい何なのか? 軍

の情報部がデマを流し、UFO肯定論者を攪乱するのはなぜなのか?

 政府は何を知っていて、何を隠そうとしているのか?

 

 一九六九年、この問題について全米科学アカデミーが調査報告書を出した。その報告書は、U

FO目撃報告のなかには「容易に説明できない」ものもあると認めつつも、こう結論していた。

「UFOについては諸説あるものの、地球外知的生命体の来訪という説は最も考えにくい」と。