タイトル: 146 . Re: カール・セーガン 科学と悪霊を語る

お名前: 岩井國臣

投稿日: 5/17(14:14)


 

第12章 “トンデモ話”を見破る技術

 

アメリカでは成人の三分の一以上が、なんらかのレベルで死者と対話したことがあると

信じているそうだ。この数は、一九七七年から千九百八十八年までのあいだに十五パーセント

ほど増加した。また、アメリカ人の四人に一人は、生まれ変わりを信じているという。

 

 しかし私は、「霊媒」の言葉を信じようとは思わない。霊媒というのは、親しい故人

の魂を呼び出せるなどと称しているが、実はペテンにまみれた商売だということがわかっている

からだ。

私だって、両親がちょうど昆虫や蛇が脱皮するように、肉体という外皮を脱ぎ捨て、ど

こかに行っただけだったらどんなに嬉しいだろう。

 

 チャネリングや降霊術などは、死者との交わりによって未来を占う行為だ。その土台

にあるのは、「人は死んでも死なない」という考え方である。少なくとも、厳密な意味で死ぬの

ではなく、思考、感覚、記憶に関わる部分は生き続けるとされる。その生き続ける部分が何であ

れ(それは魂か霊だと言われているが、いずれにせよ物質でもエネルギーでもない何かだ)、い

つかまた人間やその他の生物の体内に入ることもあると言われている。もしもそれが本当なら、

死の悲しみも和らぐにちがいない。そのうえ、もしもチャネラーや降霊術師の言う通りなら、す

でに死んだ家族と連絡を取り合うことだってできるのだ。

 

 西欧民主主義社会の指導者たちは、国家レベルの決断を下すために占星術師や神秘主

義者にお伺いをたてている。迷宮入りしそうな殺人事件を抱えた警察は、早期解決を迫る大衆の

圧力を受けて、超能力者に相談をする。

 

 CIAは、超能力利用において敵国に遅れをとっていると議会につつかれ、念力で深

海底の潜水艦を検知できるかどうか調べるために税金を使っている。

 

 イエス像やマリアの壁画の頬が濡れているのが発見され、何千人もの心優しき人々

が、奇跡を目撃したのだと信じ込むこともある。

 

 これらはすべて、“トンデモ話”だと証明済みのもの、あるいはそうだと推定されて

いるものだ。

 

“トンデモ話”を軽々しく信じれば、高くつくことにもなる。 アメリカの興行師でサー

カス王と呼ばれたP・T・バーナムは、「おめでたいカモは、一分間に一人ずつ生まれてい

る」と言ったが、これはまさにそのことだ。だが、危険は金の問題だけにとどまらない。もしも政

府や社会が批判的にものを考える力を失えば、それこそ“とんでもない事態に”なりかねないか

らだ。

“トンデモ話”に引っかかった人には同情するにせよ、問題はもっとずっと大きいので

ある。

 

 

(1) 懐疑的思考とは、筋の通った議論を組み立てたり、それを理解したりするため

の手段である。わけても重要なのは、人を惑わすごまかしを見破ることだ。大切なのは、推論に

よって引き出された結論が気に入るかどうかではなく、その結論が、前提ないし出発点からきち

んと導かれたものかどうか、そしてその前提が正しいかどうかなのである。

 

 次にそんな道具の例を挙げておこう。

 

・裏づけを取れ。「事実」が出されたら、独立な裏づけをできるだけ取るようにしよ

う。

・議論のまな板にのせろ。証拠が提出されたら、さまざまな観点をもつ人たちに、しっ

かりした根拠のある議論をしてもらおう。

・権威主義に陥るな。権威の言うことだからといって当てにしないこと。権威はこれま

でもまちがいを犯してきたし、今後も犯すかもしれない。こう言えばわかりやすいだろう。

「科学に権威はいない。せいぜい専門家がいるだけだ」

 

(2)・仮説は複数立てろ。仮説は一つだけでなく、いくつも立ててみること。まだ説

明のつかないことがあるなら、それが説明できそうな仮説をありったけ考え出そう。次に、こう

やって得られた仮説を、かたっぱしから反証していく方法を考えよう。このダーウィン主義的な

選択をくぐり抜けた仮説は、単なる思いつきの仮説にくらべて、正しい答えを与えてくれる見込

みがずっと高いはずだ(*)。

・身びいきをするな。自分の出した仮説だからといって、あまり執着しないこと。仮説

を出すことは、知識を手に入れるための一里塚にすぎない。なぜそのアイディアが好きなのかを

自問してみよう。そして、ほかのアイディアと公平に比較しよう。そのアイディアを捨てるべき

理由がないか探してみよう。あなたがそれをやらなければ、ほかの人がやるだろう。

・定量化しろ。尺度があって数値を出すことができれば、いくつもの仮説のなかから一

つを選び出すことができる。あいまいで定性的なものには、いろいろな説明がつけられる。もち

ろん、定性的な問題のなかにも深めるべき真実はあるだろうが、真実を「つかむ」方がずっとや

りがいがある。

 

(3)・弱点を叩きだせ。論証が鎖のようにつながっていたら、鎖の輪の一つ一つがき

ちんと機能しているかどうかをチェックすること。「ほとんど」ではなく、前提も含めて「すべ

ての」輪がきちんと機能していなければならない。

・オッカムのかみそり。これは使い手のある直感法則で、こう教えてくれている。「デ

ータを同じぐらいうまく説明する仮説が二つあるなら、より単純な方の仮説を選べ」

・反証可能性。仮説が出されたら、少なくとも原理的には反証可能かどうかを問うこ

と。反証できないような命題には、たいした価値はない。たとえば次のような壮大な仮説を考えて

みよう。

「われわれの宇宙とその内部の一切は、もっと大きな宇宙のなかの一個の素粒子(電子

など)にすぎない」。だが、この宇宙の外からの情報が得られなければ、この仮説は反証不可能

だ。主張は検証できるものでなければならない。筋金入りの懐疑派にも、推論の筋道がたどれな

くてはならないし、実験を再現して検証できなければならないのだ。