欧米及び東南アジアにおける民活ついて
平成9年11月26日
岩井 國臣

はじめに

去る11月18日の経済対策閣僚会議で決定された緊急経済対策で、社会資本の整備に関し、PFI,BOT等の新しい整備手法が提唱され、政府としてもそれらの検討をすることが決まった。

すなわち、

*公共施設空間の有効利用や民間の高い技術力、経営力と豊かな資金力の活用による社会資本の新たなPFIやBOT等整備手法について検討を行い、来春を目途に、新たな社会資本整備手法等の導入が期待される分野、事業成立を可能とするための諸条件等を明らかにしたガイドラインを策定する。

*海外において経済協力等を通じて蓄積してきたBOT等に係わる経験・ノウハウを活用し、我が国における日本版PFIやBOT等による新たな社会資本整備の在り方や手法等について検討する。

*地方公共団体におけるPFIの活用についても検討する。

という3項目が決まったのである。

ちなみに、これらについては、自由民主党における、10月21日の「緊急国民経済対策」では議論未成熟のまま先送りされていたが、その後の情勢変化により急速にクローズアップされてきた。

自民党の「緊急国民経済対策」が発表された翌日、日本経済新聞に、石川島播磨重工業らが進めようとするトルコの大規模プロジェクトが紹介された。これがPFIやBOT等が急にクローズアップされてきた理由ではないかと思われるので、まずこれを紹介しておきたい(資料ー1)。

 

その後、11月6日の建設部会における「緊急国民経済対策(第二弾)に係わる提言」を受け、11月14日の政務調査会で「新しい社会資本整備(日本型PFI・BOT等)の推進」が提唱された。念のためここに再掲しておく。

*PFIやBOT等新たな社会資本整備の手法について、事業分野や官民の役割分担、及びそれを促進するための規制緩和、制度改革等総合的な検討を早急に行い、指針を策定する。なお、PFI方式による社会資本に関しては、様々な提案があるので、早急に検討をし、年内に結論を得る。

 PFIやBOT等の詳しい説明は、後ほどするとして、資料ー1に関連し、とりあえずBOTについて概要を説明しておきたい。

 BOT事業とは、民間資金で行う公共事業のことである。つまり、民間企業が、政府等公共機関から事業免許を取得し、自らの資金でインフラを整備(Build)し、有料で運営(Operate)し、一定期間後、そのインフラを管理者に移管(Transfer)する、そういう事業のことである。

 BOT方式により事業を実施するとき、そのプロジェクトの企画を政府等公共機関が行い、一定条件の下で事業免許取得の入札をして上で事業者を選定する場合と、民間企業がプロジェクトを企画し政府等公共機関に提案し、交渉により事業免許を取得する場合がある。

 近年、多くの国が財政赤字問題に直面すると共に、経済活動の国際化に伴い、広範な市場競争原理導入の必要性が高まってきたことから、俄然世界的に注目され始めている。

 特に、アジア諸国のように、急激な経済成長を遂げており、膨大なインフラ整備を急がなければならない国では、このBOT事業の展開が緊急課題となっている。

 事例としては、サッチャー政権の民活路線にのっとって進められたイギリスのダートフォード橋(一九九一年完成)や香港の東部海底横断トンネル(一九八九年完成)が有名である。近年は、道路事業で、オーストラリア、カナダ、アメリカ、香港、中国、インドネシア、マレーシア、タイ国など多くの事例がある。

 

1、東南アジア等の事情

 近年の成長著しいアジア諸国に於いては、社会基盤(インフラストラクチヤー)整備が立ち遅れており、経済成長に追いつかないことが、今後の継続的な産業、経済の発展を妨げる大きな要因になるのではないかと懸念されている。国際的金融機関、総合研究所等のシンクタンクでは、今後10年間のアジアでのインフラストラクチヤー投資需要を約1.5兆米ドルレベルと予測しており、そのうちの60%は公的資金が見込めるが、40%については民間資金の導入が必要不可欠と推測している。

 このような状況の中で、民間資金導入によるインフラストラクチヤー整備事業の形態として、BOT(Build Operate Transfer)方式による民活インフラプロジェクトが、アジア諸国で採用されてきている。特に電力、交通、上下水道事業の実施例が多い。

 建設省建設経済局国際課長を座長とした、BOT検討ワーキングチームによる調査によれば、現在、東南アジア等でBOT方式が採用されているインフラは、表−1のとおりである。

     表−1    現在BOT方式が採用されているインフラ
国 名 
発電 
道路 
港湾 
空港 
鉄道 
住宅 
下水道 
上水道 
その他 
フィリピン 
◎ 
△ 
     
△ 
           
マレーシア 
◎ 
◎ 
△ 
  
△ 
  
△ 
○ 
放送、通信 
中 国 
△ 
△ 
                  都市交通 
インドネシア 
◎ 
◎ 
  
検討中 
              
タ イ 
  
○ 
     
○ 
     
◎ 
電話 
ミャンマー 
     
○ 
               ホテル

(オフィスビル含む) 

ト ル コ 
◎ 
◎ 
△ 
△ 
△ 
△ 
○ 
○ 
  
ブラジル 
     
△ 
                 
コロンビア 
◎ 
◎ 
○ 
○ 
◎ 
  
△ 
△ 
石油、ガス

(パイプライン等) 

◎:多い ○:比較的多い △:少ない

 現在、アジアに300件以上の民活インフラプロジェクトが計画・進行中であるが、日本企業との間でファイナンスが成立した案件は、中国/沙角B、C、フィリピン/パグビラオ、インドネシア/パイトン、パキスタン/ハブリバーなど電力を中心に数十件に限られている。(1996末時点)

  

表−2 日本企業関与の主要な民活インフラ・プロジェクト(成立プロジェクトのみ)


 
プロジェクト
日系企業
対象国
カテゴリー
ステータス
関与
沙角B 三井物産・兼松・

IHI・東芝

中国 電力 操業中 出資、請負

サプライヤー

沙角C 日商岩井・兼松 中国 電力 9 6年6月 完 成 予 定 出資
イースタンハーバークロッシング

(第2海底トンネル)

熊谷組・丸紅 香港 トンネル 操業中 出資、請負
ウェスタンハーバートンネル 西松建設・熊谷組 香港 トンネル 建設中

( 9 7年4月 操 業 )

P/JはB O T

請 負

テーツ・ケーン 西松建設・伊藤忠 香港 トンネル 操業中 出資、請負
セランゴール 間組 マレーシア 上水施設 操業中 出資、請負
セランゴール 三井物産 マレーシア 上水施設 操業中 出資、請負
バグビラオ 三菱商事 フィリピン 電力 操業中 出資、請負
LRT−3 住友商事・重工 フィリピン 鉄道 BLT方式

98年操業開始

出資、請負
ファースト・トラック・バタン 丸紅・川崎重工 フィリピン 電力 93年1月受注 請負
ファースト・トラック・ミガン トーメン フィリピン 電力 94年〜操業 出資
ハブリバー 三井物産・I H I パキスタン 電力 建設中 出資、請負
イズミット水処理 三井物産・住友商事 トルコ 上水施設 95年12月に契約 出資
バンコク第2高速道路 熊谷組 タイ 高速道路 94年退出 出資、請負
M2 有料道路 大林組 オーストラリア 高速道路 94年8月契約 出資、請負
シドニー・ハーバー・トンネル 熊谷組 オーストラリア トンネル 87年契約、操業中 出資、請負
ブルーマウンテンズ下水道トンネル 大林組 オーストラリア 水処理 93年1月契約 出資、請負
メルボルン有料道路 大林組 オーストラリア 高速道路 95年12月契約 出資、請負
オリンピックスタジアム 大林組 オーストラリア スタジアム 96年9月契約 出資、請負
パイトン 三井物産 インドネシア 電力 98年操業開始 出資

N.A.:Not Available(データ入手不能)

出典:長銀総合コンサルティングデータベース 1996年3月現在

  

2、先進国の事情

(1)イギリス

(背景)

・イギリスでは、サッチャー政権の下で、様々な国営企業の民営化、公共事業への民間資金の活用の方向性が示された。しかし、国営企業の民営化に関しては着実に進められたものの、公共事業への民間資金の活用については、あまり活発には活用されなかった。

・このため、1989年に民間活力の導入をより積極的に行うとの方向性が示され、1992年にはPFI(Private Finance Initiative)構想が打ち出された。これにより、イギリスでは、道路、鉄道、医療、都市開発、情報システム、刑務所、教育、上下水道など公共事業のあらゆる分野にPFIが導入されており、現在までに約千件、約25O億ポンドのプロジェクトが進行中、計画中、構想中である。

・中でも特徴的なのは、DBFO(Design Build Finance Operate)といわれている方法で、道路の設計・建設・資金調達・運営を民間が行い、契約期間中は、道路を利用する自動車の想定台数に基づく「Shadow Toll(仮想料金)」を政府から受け取り、徐々に投資を回収していくというものである。

(事業例)

 ○ダートフォード橋〔民間4社の共同出資会社による有料橋事業〕

 ○第2セバン橋〔民間4社の共同出資会社による有料橋事業〕

 

(2)アメリカ

(背景)

・オイルショックに伴う建設コスト、維持管理コストの上昇、既存道路網の老朽化などにより、道路財政需要が著しく増大し、アメリカの道路財政は極めて厳しい状況になった。このため、燃料税の値上げによる財源の確保や新たな道路財源についても種々の方策が打ち出された。

・しかし、これらの財源確保方策だけでは、カリフォルニア州、バージニア州、フロリダ州などの成長地域の道路財政需要に対応するのには不十分であった。

・このため、これらの州では、連邦補助を受けずに州道を有料道路として整備することを検討し始めた。

・こうした、各州による有料道路整備の動きに対応して、連邦政府は、1991年「総合陸上交通効率化法」を制定し、有料道路事業への連邦政府の規制を大幅に緩和し、連邦補助による有料道路事業を積極的に推進するとともに、道路整備の民営化を積極的に認めるという政策転換が行われた。

(事業例)

 〇ダレス・グリーンウェイ〔民間3社の共同出資会社による有料道路事業〕

 〇SR91急行車線(高速道路)〔民間3社の共同出資会社による有料道路事業〕

 

(3)先進国におけるBOT方式の特質

(3−1)公的機関の多様な支援手法

先進国においては、発展途上国に比べ、政治リスクや為替リスクなどの事業リスクが低い。このため、事業運営上の需要の確保等が事業の正否の鍵を握るため、以下のような支援策がとられている。

・競合関係になる既存の公共施設の運営権を民間に譲渡(英:ダートフォード橋、英:第2セバン橋)

・施設へのアクセスルートを公的機関が整備(英:ダートフォード橋、英:第2セバン橋)

・施設完成後に公共に所有権を移管することで、民間事業主体は施策の固定資産税を払う必要がない(米:SR91急行車線(高速道路))

 

(3−2)料金規制による公共性の維持

一般的にBOT方式による社会資本整備の問題点の一つとして、受益者の負担が必要以上に重くなってしまうことがあげられる。このため、公共性を維持するための方策がとられている。

・通行料金の設定に関しては、公共事業の規制機関に申請し、認可を受ける(米:ダレス・グリーンウェイ)

・事業主体の利益が投資額の18%を越えた場合は、州政府へ編入される。(米:SR91急行車線(高速道路)、ダレス・グリーンウェイ)

・交通料金は、交通量に基づきあらかじめ設定された計算式によって決定(英:第2セバン橋)

・通行料金は、契約時の既存のトンネルの通行料金を上限(物価上昇分以内なら可、英:ダートフォード橋)

・委譲期間よりも早く投資資金の償還が終了した時点で、施設の所有権、運営権を公共に無償譲渡(英:第2セバン橋、英:ダートフォード橋)

 

3、PFIについて

 (1)PFIとは

 PFIとは、Private Finance Initiativeの略で、BOTが手法を言い表しているのに対し、これは理念を言い表している。すなわち、従来公共部門によって建設・運営されてきた分野に民間企業の資金や運営ノウハウを活用しようとする考え方をPFIという。そういった考え方にもとづく手法については、後ほど説明するように、いくつかの手法があり、その中の一つの手法としてBOT方式がある。

 先程述べたように、イギリスでは、大蔵省が中心になり、1992年からPFIという考え方を取りはじめたのであるが、本格的に動き始めたのはここ2〜3年のことである。

 この考え方にもとづく基本的なやり方は、まず、すべての公共事業について、まず政府がマーケット・テスティングというものを実施する。その結果により、政府部門が実施するものと民間部門が実施するものの区分がなされる。マーケット・テスティングとは、その公共施設が民間主体で実施可能かどうかを検討するもので、イギリスではVFM(value for money)といっているが、コスト・パーフォーマンス(その施設が資金に見合う価値を持っているかどうか)を明らかにするのである。

 イギリスでは、現在、公共部門が実施するもの年間200億ポンド、民間部門が実施するもの年間20億ポンドといわれている。政府予算は年々削減されてきており、PFIプロジェクトがそれを補い、財政支出の下支さえをしているようである。

 

(2)PFIの類型

 イギリスの大蔵省は、資金の支出方法により、PFIプロジェクトを次のように分類している。
 
a. 民間部門による公共サービス提供型 … 政府はサービスを購入する

 民間部門がプロジェクトの設計、建設、管理資金提供を行い、公共部門がサービスを購入し対価を支払う。(例:病院、刑務所、DBFO道路等)

b. 独立採算プロジェクト型 … 政府は原則として支出しない

 政府が民間部門に公共プロジェクト建設、運営の許可を与え、民間部門が建設コストを料金によって回収する。(例:有料橋、博物館等)←BOT方式

c. ジョイント・ベンチャー型 … 政府は補助金を支出する

 公共部門と民間部門の共同出資により推進する事業で、運営は民間部門に任される。(例:都市開発プロジェクト等)

 

(3)PFIの主なメリット、デメリット

(メリット)

・計画面等で行政の関与を維持しながら政府のリスクと財政負担を民間に移転可能。

・政府は公的資金や認可を呼び水として予算制約を超えたプロジェクトが実施可能。

・最終ユーザーにより良いサービスが提供される。

・民間事業者の事業、技術革新の機会の増大につながり、効率的運営や得られたノウハウの応用により新たな収益機会を獲得するチャンスとなる。

・外資を含めた新規プレーヤーが参加する機会が提供される。

・プロジェクトの失敗が顕在化する。

 

(デメリット) ・プロジェクト入札から契約までの手続きが複雑で時間と多額の費用を要する。

・公共からのリスクの押し付けが過度になる(反対に、リスクのみを公共が負うことになるのではないかとの指摘もある)。

・リスクの高さから入札者が限られる。

・事業がうまくいかなかった場合に政府が事業をコントロールするのが困難。

・公共部門のサービスの質が低下する場合がある。

・落札後、契約までの条件の詰めにおいて価格が増嵩する事例がある。

・公共部門の雇用を奪う可能性がある。

・DBFO道路などのシャドウ・トール方式について、単なる起債逃れに終わる可能性があり、財政単年度主義と調和するのかという疑問もある。

・後年度債務負担も勘案しつつ事業を遂行しないと、財政の硬直化を招く。

 

4、BOTについて

(1)BOTとは

・民活インフラ整備・運営の一手段で、民間が公共の認可のもとに施設を民間資金で整備(Build)、運営(Operate)し、ある一定期間にその利用料金で投資資金を回収した後、公共にその施設を移管(Transfer)する事業方式。 (2)BOT方式の類型 ・BOT方式には、以下に示すように類似する概念が存在している。しかし、一般 的には、最終的に施設の移管が行われない方式も含めて、「民間企業の直接資本参加による社会資本整備」を総称する広義の意味でのBOT方式という呼び方がなされることも多い。
BTO(Build-Transfer-Operate):建設、工事代金を受け移管、運営にも参画

BLT(Build-Lease-Transfer):建設、公共部門に一定期間リース、移管

BOO(Build-Own-Operate):建設した施設を移管せず所有、運営

RLT(Rehabilitate-Lease-Transfer):補修、公共部門に一定期間リース、移管

など

 

(3)プロジェクトファイナンス

BOT方式における資金調達は、プロジェクト・ファイナンスの形態をとる。プロジェクト・ファイナンスとは、プロジェクトの資産を担保物件とし、プロジェクトが生み出すキャッシュフローのみを返済原資とする資金調達手法を言う。

実際には、そのプロジェクトを遂行するための事業会社を設立し、この会社がプロジェクトの全ての資産を保有し、プロジェクトの建設資金、運営資金の借り手となる。貸し手は、プロジェクトの全資産を担保にとり、プロジェクトが生み出すキャッシュフローのみで返済を受ける。

 

(4)先進諸国におけるBOTの事例 1.コンフェデレーション橋(カナダ)

13km架橋、35年BOT方式、事業費750億円、1997年供用。

フェリーの赤字額(年37億円。従来政府が補助していた。)を下回る希望補助額を提示した民間コンソーシアムが獲得。

 

2.カリフォルニア州SR91高速車線(アメリカ)

16kmの有料車線を無料の道路の内側に付加。35年BTO方式(州法AB680)

1995年共用。事業費140億円は民間コンソーシアムが全額調達。

ピークロードプライシングの採用、25セント〜2.5ドル(10倍)の変動

 

3.水道・下水道事業の民活(フランスの水処理エンジニアリング会社)

フランスの水処理エンジニアリング会社が独国内の水供給水処理事業を25年間の独占使用権つきで約50億円で受注(1992)。

フランスの水処理エンジニアリング会社が豪国内の水供給水処理事業を15年間のBOTで受注(1994)。

 

4.イギリスのDBFO(Design Build Finance Operation)道路の例

民間部門による公共サービス提供型プロジェクトの一種で、設計、建設、資金、 運営を民間部門が行う。交通量に応じて公共側から料金の支払いを受ける。ドライバーから見れば無料。(シャドウ・トール)

交通量(走行台キロ)に応じて支払がなされるため、民間側に交通量を増加させるインセンティブが働く。また、車線の閉鎖の場合はペナルティが、交通事故率が下がった場合はボーナスが与えられる。

1994年に実施決定された8プロジェクトの道路事業では、総事業費約3000億円となっている。

 

5.シドニー・ハーバー・トンネル(オーストラリア)

トンネル全長2.4km、30年BOT方式、事業費750億円、1992年供用。

日本企業(熊谷組)が地元の大手建設会社と協力して事業を実施。

州政府は、既存の有料橋の通行料金を値上げし(20セント→1ドル)、値上げした分を事業会社に無利子で融資。

 

Iwai-Kuniomi