貴船
浮気する男を呪詛するため丑の刻参りする女。
辿り着いた貴船の宮、
思いの苦しさに鬼となりたし、
いうより早く、逆毛立ち、
恨みの鬼と化して帰宅する。
異変を感じ陰陽師・安倍清明のもとにはしる夫。
死期は迫り等身の人形、五色の御幣、
供え物にて諸神諸仏を一心不乱に祈り込める。
たちまちに雷鳴とどろき御幣はゆれて、
立ちあらわれる女の生き霊。
橋姫の登場である。
赤き顔、赤き衣を身にまとい、
頭上に三本足の火を灯した鉄輪をのせる。
「うらめしや御身の契りしそのときは、玉椿の八千代、二葉の松の末かけて、変らじとこそ思いしに、・・・・・捨てられて思う思いの涙に沈み、・・・・あるときは恋しく、または恨めしく、起きても寝ても忘れぬ思いの、因果はいまぞと、白雪の消えなん命は今宵ぞ痛わしや・・・・。」
かきくどき男を責めさいなみ、命をとらんとしたそのとき、
三十番神が顕ち現われて。
たちまちに神通力は失せ、怨念の鬼女は退散する。
これは室町後期に作られた謡曲「鉄輪」の場面。素材となったのは、鎌倉後期に作られた「平家物語」剣巻。貴船の神の計らいで生きながら鬼となった「宇治の橋姫」をモチーフとしている。すくなくとも平安中期に生まれていた呪詛の信仰が、鎌倉後期には貴船の神性をしのぐようになったのだろう。
貴船の本来の神性は「水の神」である。
強烈な魔力を加えて・・・・
「平家物語」剣巻で遂にフィクション化された。
聖と邪の一体化、・・・・それが貴船だ!
貴船は神域であり、魔界である。
