ラカンの鏡面段階論

 

 

 ラカンによれば、フロイトの無意識について、「無意識は一つの言語活動として構造化されている」ということである。そして、ラカンによれば、主体 というものは、自己自身について語りつつ、知らず知らずのうちに他者となり、「他者の欲望」をもって自己に近づくという。このことは、主体について語り 合っている「他者の言語」の中へ自己を疎外することによってのみ、主体が、自己について話すことのできる人間主体となりえないという根本規定を露呈させ る。ラカンが鏡面段階論において示したように、他者への自己疎外は主体の形成にとっての構成要件であり、主体ははじめから分裂した構造をもって出発する。

 

 岩波の哲学・思想辞典にはそんなことが書いてあるが、まあむつかしい。むつかしいが、大雑把にこれを理解するとすれば、人間というものは、要する に、要するに・・・だ、要するに、生れてから不完全なままというか偏ったまま出発しているので、真実はどうしても言葉では語れない・・・・ということらし い。中沢新一の説明によれば、トーラスの中空の穴は、人間の知恵ではこれを埋めることはできず、スピリットの活動によってのみこれを埋めることができると いうことである。まあ、この点についてはこの程度にしておいて、岩波の哲学・思想辞典から、ラカンの鏡面段階論を紹介しておこう。

 

 生後6〜18ヶ月の乳幼児は、神経系の未発達のために、神体感覚とくに自己受容知覚の統合を経験しておらず、<寸断された身体>の状態を生 きている。これに比較して視覚は早くから発達するため、鏡に対面した乳幼児は、彼自身の映像と世界の映像の光学的関係の諸知覚を処理して、から自身の像を 世界の中での特権的な地位を占めるものとして認知する。こうして視覚的に先取りされた像の上に、自己の能動性の中心、或いは自我(私)が発生する。なお、 理想として自我が設立されるこの虚の次元は、必ずしも鏡そのものによってではなく、母の体、他者の語り合う声など、主体の属する世界の中で主体に一定の統 合性の認識を与える様々な培地によって構成されうると考えられる。

 

 この構造は、他者との関係が人間主体の本質であることを意味するばかりでなく、同時に、本来的自己の復権を社会に対して要求する<パラノイ ア>的な病苦を基礎づける。ラカンによればこの復権要求といわゆる人格とは切り離しえないものであり、後年彼は人格とはパラノイアであると言い切っ ている。

 

 

 以上がラカンの基本的考え方であり、自己実現の基本は、他者とのコミュニケーション、すなわち響き合いであることを言っているのである。

 

 私はこのラカンの考え方を基本として、「劇場国家にっぽん」の構造をつくりあげたいと考えている。人間は、言語で真実を語りきることはできない。 どうしても「真実を語りきれない空洞の部分」が残る。これがトーラスモデルだが、ラカンが言うように、人間というものは、誰しもその<パラノイア >的な病苦、つまりトーラスモデルでいえば「真実を語りきれない空洞の部分」を持っているのであり、本来的自己の復権を社会に対して要求しているの である。社会はそれに応えなければならない。「劇場国家にっぽん」というのはそのための国家像そのものに他ならない。トーラスモデルの真ん中の空洞、つま り「真実を語りきれない空洞の部分」を埋めるためには、市場経済のゆき過ぎを緩和し、わが国の歴史と伝統・文化を継承していくことがもっとも肝要である。

 市場経済のゆき過ぎを緩和し、わが国の歴史と伝統・文化を継承していくためには、他者とのコミュニケーションを助長する政策を積極的の講ずるべき である。他者とのコミュニケーション、それは場所とのコミュニケーションと人とのコミュニケーションの二つに分類されるが、それらはラカンのいう「他者へ の自己疎外」を穴埋めするものでなければならない。そして、「他者への自己疎外」を穴埋めするということは、中沢新一によれば、スピリットの活動そのもの に他ならないのである。その基本は、場所については「失われた自然の回復」であるし、人については、「贈与経済への参画」、つまり「NPO活動」である。

 

 国民はできるだけ自然を体験する必要があり、そのためのインフラ整備が重要である。もっとも緊急にやらねばならないインフラは、休暇制度である。 できるだけ数多くいろんな自然を体験できるように現在の休暇制度は緊急に改めなければならない。もちろん自然そのものの保護または保全を図りその利活用を 図ることは重要である。原始の自然はこれをできるだけ保存すると同時に、身近な自然をできるだけ保全してその利活用を図るべきだが、特に、全国的なエコロ ジカルネットワークの形成と高速交通体系の整備は、それらインフラ整備の根幹となるものである。

 

 今回ここでは、「NPO活動」のことについてはあえて触れない。NPOの問題については天皇制と密接不可分な関係があり、社会システムの基本とな る天皇性についてはまだそれを語る段階にきていないからである。できるだけ早く天皇性についても私の考えを明らかにしたいが、今回ここでは、「NPO活 動」もスピリットとまったく同じレベルの・・・心に関連する問題であるというか、まあ・・・いうなれば「創造の空間」の問題であるということだけを申して おきたい。

 

 

 では、中沢新一の著書(「カイエソバージュ・、神の発明」、2003年6月、講談社)をお手本とするスピリットに関する一連の勉強をひとまとめに 整理しておこう。

 

1、新しい文明の鍵・「後戸」(うしろど)

2、神(ゴッド)

3、スピリット

4、神にならなかったグレートスピリッ ト

5、高神(たかがみ)と来訪神(らいほ うしん)

6、一神教の誕生

7、メビウス縫合型とトーラス型

8、一神教のまやかし

9、未来のスピリット