岩井
「21世紀・建設産業はどう変わるか」という我々の本において、太田先生はこう言っておられます。「地域の人々の生活を支えるもの、つまり生活の基盤が、社会基盤、インフラストラクチャーである。それは地域に住んでいる人たち、地域で働いている人たち、地域を訪れるひとたち、みんなの共通の宝物といえる。地域の将来や発展は、インフラの適、不適で決まってしまうものである。したがって、計画作成段階で地域のひとたちが参加する事が必要不可欠である。このような哲学をもった建設エンジニアがいなければ、積極的な経済成長のための先行投資としての重要性を・・・・インフラ整備に持たせることができなくなる。」・・・・こう言っておられるわけですけれども、これは重要な指摘をされていると思います。
太田秀樹(東工大教授)
この本そのものがどういうふうにできてきてるかかという話なんですが、特定の何人かが書いたというよりは20人近い人が書いていますんで、それも1,2年の間に出た意見で書いているわけではなくて、相当長い期間やってきた議論を背景にして書いている。ですから私がそんな事を書いてますけれども、他の誰かが書いても、書き方は別として、趣旨はほとんど変わらなかったと思います。今までの議論のなかで、私の印象に残ったのはPFIなんです。それもPFIという言葉でいうんではなくて、熊谷組がオーストラリアで、ハーバーブリッジでしたか、トンネルでしたか、民活形式で建設した時期がありました。それに参加した人が有岡さんであったのですが、その有岡さんが話をされて、それが将来の公共工事のあり方ということで話題になりましてね。その採算性がどうだとか、地元の人たちの同意をどうやってとりつけるかという議論をやりましたね。岩井先生も参加されてました。今、先生が読まれた文章も確かに書いたのは私ですけれども、あの当時は、今でもそうだと思いますけれど、あの当時あのメンバーの人たちみんなそんなイメージを持ってたのではないかと思います。
岩井
私ら建設省では、広域根幹施設といっているんですけれども、その地域のためというよりね、広域的に、ダムだったら下流のためとかね、高速道路であれば、日本全国全体のため、そういう広域根幹施設をやっているんですね。だから必ずしも、その地域の利害と一致しないという面がある。地元に対しそれをどう根気強く説得するかということは当然ある訳ですが、それだけではダメで、広域根幹施設といえども、地域のニーズ、地域の想いっていうんですか、そういうものとギャップがあっちゃいかん。広域根幹施設っていうのは本来地域の利益を越えたもの、地域のためになるわけじゃないんだからいろいろその説得しなきゃいかんけど、時間かけても説得しなきゃいかんけど、地域の人たちの想いを酌んで・・・いろんな配慮を加えるということが必要になってきていると僕は思っているわけです。その意味で、この文章を読みますと、要するに、地域で働いている人たち、地域を訪れる人たち、みんなの共通の宝物だと。そうすると・・・・これからの公共事業、まあ、特に広域根幹施設については問題が多い。いろいろと考えなければならない問題がある。地域の人たちの想いというものをそれをどのように公共事業のなかに組み込んでいくのかという事が、今、問われているのかなという感じがしてるんですけどね。
太田
その通りだと思いますね。これもだいぶ前に出てきた議論なんですけどね。法律なんですよ。法律上の規制がもう少し緩められると、もっと合理性を持ってくるんだろうと思います。
岩井
基準があり、規則があり、法律があり、ある一定のものがあれば間違いなく品質が保障されますね。確かにそれが便利であったというか、効率が良かったということなんですね。しかし、現場のエンジニアの工夫が生かされるかどうかとなるとなかなかそうはならないし、それからまた、地域の人の想いをそこへ反映するなんちゅうことはなかなかできにくい。だけど、これからはですね、そりゃまだまだ公共事業を量的にも作らなけりゃならんけども、質の問題もありますからね。そうすると、地域の人たちの想いっていうものがそこに入ってないとね、やっぱりちょっと施設としては具合が悪い。で、まあ太田先生のここの文章がね、ま、そういうことを書いてあるように思うんですけど・・・・・・。
太田
そうです。おっしゃるとおり。柔軟にやろうと思ってもなかなかできない理由がありましてね。たとえば、ダム。洪水調節用のダムをつくりますよね。その上流に副ダムをつくりまして、そこだけは水位はあまり動かさないでリクリエーション用に使えるようにする。会計検査的にはダメです。会計検査的は、ま、無駄遣いなんですよね。だけど、地元から見れば、遊園地を作ってもらうとお客さんがくるし・・・。
岩井
あっはっは。そうなんですね。やはりしっかりと土木哲学をみんなが持たなけりゃいかんね。河川関係の、われわれの大御所、財団の吉川さんがね、そう言っておられますよ。基準は、高度成長期の役に立ったけど、今は邪魔だと。やっぱり、ほんとの技術者であれば、なんの基準もいらないですよね。自分が考えて、これはいいと思ったら、いいんですな。あまり基準に頼りすぎると、原理原則がわからずに基準基準でやるとやっぱり、いいものはできないよね。
太田
まあ、硬直化しますよね。
岩井
硬直化するよね。だから吉川先生はそうおっしゃった。まあそう思いますね。そこで僕はやっぱり太田先生のここのくだりっちゅうか、哲学ということですが、もうひとつですね、風土工学、竹林君の風土工学を評価していだだいてますね。風土っていうのはですね、ただ単に景観じゃないですね。風土工学ということで竹林君の名前を書いてもらったんだけど・・・・。

太田
彼のね、その言わんとするところはを我々はもっと聞くべきだと思いますね。ものすごい、強い言い方をする方だから、拒絶反応もあるんだろうと思いますよ。だけどそりゃあ、キャラクターの問題でしょ。
岩井
そうキャラクターの問題。
太田
彼が言ってるのは、ほんとにこれからの時代を先取りしているんじゃないかなあと私は思いますね。あの人はどんな経歴をもっているのか僕は知りませんけれども、甲府の所長だったとき、民話だとか歴史だとか、いっぱい知ってるんですよね。あの人が言ってる事はほんとに大事だと思いますね。
岩井
地域のね、歴史を、彼はものすごく勉強するんですよ。歴史を勉強するってことは、その地域に住んだたちが何に苦労して生きてきたかを知ることですね。何をテーマに生きてきたかとかね。何を生きがいにして生きてきたかとかね。生き様みたいのがわかるでしょ。その地域の。それらを勉強するんですね。それはやっぱり僕は素晴らしいと思いますよ。
太田
面白いと思います。地元の役に立とうと思えばやはり、地元のことを本気で勉強せんと駄目ですよね。そういう点であの人の言ってる事はもっとみんな耳を傾けるべきだと、私は思いました。
岩井
それは、僕もまったく賛成で、太田先生が我々の本に風土工学のことを書いてくれたことがとてもうれしかったということです。
その地域の人たちの想いっちゅうのかね。ぼくは大事だと思う。それでね、KJ法ってあるでしょ?川喜多二郎の。ぼくの山岳部の先輩です。川喜多二郎さんといろいろ話した事があるんですけど、KJ法とコンピューターとを結び付けるととても面白い。地域の人たちの想いをね・・・・KJ法で引き出すんですよ。年寄りの、年寄りだけでなく、若い人もおって。いいわけですけど。だけど、年寄りのおじいちゃんおばちゃん、その地域に生まれて、育って、青春時代そこで過ごして、あるいはよそから結婚してきた人もいるかもしれない。で、ずうっとその地域へ住んで、地域の水を飲んで地域の空気吸って、地域の食べ物食べて、ずうっと生きてきますね。日々その地域の風景見て、山見て、川見て、田んぼを見て過ごしてきますね。当然いろんな想いがあるんですね。他の地域と当然違う想いがそこに形成されますね。それをKJ法で引き出すんです。
太田
面白いですねえ。
岩井
でね、それをデータベースにね。蓄積していくというんですよ。
太田
いろんな意見をダーッと集めるんですね。
岩井
要するに、頭の中にある遺伝子じゃないけど、頭のなかにあるものを引き出すんですよ、KJ法で。で、それをデータベース化するわけですね。そうすると、それはね、うそじゃないんですよ。事実なんです。その人が良かったか悪かったか知らんけど、一生の間にいろいろ思ったことがひとつずつ出てくるんですな。でね、それが風土ではないかと思うんですね。
太田
面白いですね。
岩井
まあやっぱり地域のね、いろんな人たちの思いっていうのが、公共事業の中に何らかの形で反映されなければならない。となると竹林君の風土工学の世界になっていくわけです。そういうことを前提にしてですね、最後にPFIの話になりますけれど、これについても、書いていただいているわけです。ちょっと読みます。
「経済的で合理性をもった公共事業のひとつの形態が、今注目されているPFIである。でPFIに適したプロジェクトをいかに見つけてくるか。見つける能力がなければ建設産業の新しい展開が見えてこない。」
ここまで書いてもらってるんですよね。だからPFIこそこれからの建設産業の生きる道だというようなふうにも読み取れるんですけどね。この点についてちょっと補足してください。
太田
私は学校しか知りません。学校しか知らないから現場のこと、役所のサイドから見た現場も、民間の業者からみた現場も、地元から見た現場も私はわかってないんです。だけど、PFIのようなある種の採算性を考えた、そして、投資のリスクを持ったプロジェクトはですね、おそらく都市の再開発に一番向いてるんじゃないかと私は思っている。
こういう対談でその私企業の名前をあげたらいかんのかも知れないけど、森ビルのやってるような仕事、つまり地元の人、あれはやっぱり東京の人でないとできない。昔からあの辺に住んでいる人が、まわりの人に声をかけて、この町を変えようと、ついてはおれに任してもらいたいってなことを言うてるんだろうなと思いますが、しかし、ものすごい粘り強い交渉をやってると思います。地価がすごいから、お金に換算したらすごいですよ。で、ああいうふうなプロジェクトが、ある地域が東京の中で変身していくというのは一種のPFIだと私は思ってるんですね。ああいうPFIというのは都市の再開発にすごいいいなと、面白いものをもってるなと思っているんです。
そこで役所がどんな役割りをするのか、これは今までの、例えばなんとか県の土木部の職員だとかなんとか省の河川局の職員だとか、そういうような人たちがやってたような仕事とはかなり異質なものだと。そういうものを自分で出来るような能力を持つ人が役所に入ってくるといいなと私は思っているんですけれども。
岩井
なるほどね。
太田
今のままでは、すぐにはね、こんなこと、役所の制度上やる事は許されませんけど、面白いと思います。
岩井
要するにね、おっしゃるように、森ビルなんていうのは、東京の一等地で事業を展開しているわけですが、全国的にいいますと、戦後、これはずっとそうなんですけど、官主導でずっときているわけですよね。都市部が、それも大都市であればあるほど、都心であれば都心ほど、民間がどんどんイニシアチブとってやってるんですね。そのひとつの典型が、確かに森ビルなんです。これはもう民間のノウハウでやってるわけなんです。官がどうのこうのっていうのではないんですね。だから、まあ全国、全般的にいったら今、官主導なのかも知れないけれど、まあしかし、ひとつの流れとしては、時代の流れっていうのかな、やっぱり官から民っていうような流れに、僕はあると思いますね。
太田
だけど、民というのはね、不安定な要素がありましてね、例えば一時ボウリング場がはやったじゃないですか。で、これがパタッとなくなりますよね。ボウリング場は建てたけどもいらなくなる。で同じように、わかりませんけども、ゴルフ場だってワッと盛んになって、ゴルフ場がたくさんできて、しかしこれパタッと終わるかもしれませんよね。そういうその・・・・。
岩井
それはね、結局それはニーズとの関係っていうか、地域との関係っていうかそういうのありますから、ようするに市場原理がすべてではもちろんないし、そこにいろんな規制が入ってくるんだけど、まあやっぱりあれでしょうね。民間がもう少し主体性をもって、もう少し自由にやれるようにしていかないと僕はいかんように思うね。
太田
そうですね。建設会社でもああいうやりかたで活路を見つけてほしいなと私は思うんです。
請負のことばっかり考えるな。もうちょっとましなこと考えろと僕は言いたい思います。
岩井
僕なんか、行政の役割はちゃんと判っている。判った上で言うんだけど、もうちょっと民間に自由に考えてもらい、計画してもらい、実行してもらう必要がある。で、そのために、PFIですな。プライベート・ファイナンス・イニシアチブ。だから資金的にも民間が主導でやっていかなければならない。なんでもかんでも親方日の丸、公共中心というのではね、これからちょっとやっていけないんじゃないかと思っているんです。
太田
建設会社にそういうのをやってもらいたいなと思いますねえ。何とか建設とかそういうところにね、そういう部門ができていくといいなと思いますね。だけど彼らがやるかどうか彼らが決める事で・・。
岩井
いや、われわれは土木技術者ですからね、シビルエンジニアですからね、最初の話じゃないですけど、哲学やね。地域とどういう関係を保ちながらわれわれの仕事をやっていくかと。で、そこに地域を含めた哲学がいりますね。
それを具体的に言えば風土工学みたいなことであるかもわからない。地域の歴史、地域の人たちの想いというものをどうやって公共事業に反映させていくのか、まあそういうことのできる技術者でなければならないと。まあ法律があって規則があって基準があるんだけども、そういうものに縛られないで、もっと自由にやっていける。それがPFIではなかろうかという気がしてならない。僕は役所サイドっていうか官僚サイドに居りながらそういうことをすごく思うんですよ。
太田
そういう複眼的な見方をしてほしいなと思うんですね。岩井先生のような方がたまたま国会に出てらっしゃるから、希望が持てます。我々は国会というのは陳情ぐらいはできるかも知れないけれども、立法府でなければできない仕事というのはかなりあると思うんですね。それをやっていただきたいんです。建設業界が閉塞感に悩んでいるというのはよくわかりますよ。私だって学生を建設会社に送り込むのに苦労するわけですから。だけどもね、このマーケットを小さくしているのは、予算ではないと私は思っている。予算ではなくて、マーケットを小さくしているのは規制だと思う。規制を緩和したらマーケットは爆発的に増える。予算なんか獲得しなくてもいい。今までどおりの予算で規制さえ緩和したらものすごい需要ができるのに、なんでそれをやらないんだと。それはだから立法府しかできない。
岩井
そうだね。政治主導・・・・・。
太田
それはもう立法府ですよ。民間会社が逆立ちしてもね、法律を変えることはできません。
岩井
そりゃそうだね。
太田
そこをね。ひとつ、今日はいいチャンスなのでね。陳情したいと思っていたんです。
岩井
いやあ、僕はね、実は、市場万能主義じゃないんですよ。市場の限界っていうのを感じてるんですよ。だから、規制が必要だと。社会の公平性、公正とかね、そういう正義というものを維持していく為にはね、やっぱり必要であると・・・・。それを大前提に言っているわけですが、今まではあまりにも規制が強すぎたってことですよ。規制緩和はもっともっとやらなければなりません。
太田
例外を認めてほしいですよね。規制は規制で本筋はそれでいいから。だけど、かかくかくしかじか、こういう場合はその限りではない。というのがね、要るんですよ。たまたま先生のような立場にいる人しかできないんだから、そういうなのは。
岩井
そういう結論で、今日はありがとう。