霊魂

れいこん soul‖spirit

 

身体にひそむと信じられる超自然的な存在。

 

人間だけでなく万物にひそむとされるときはアニマanima といわれる。

 

また古代ギリシアでは,プシュケーという霊魂概念が知られている。このプシュケーやアニマはもと〈気息〉を意味したが,そこから,この目に見えない超自然的存在を生命の原理とする考えが発達し,やがてそれを神的実在とみなしたり,人格や精神の根元とする観念が生じた。キリスト教神学にいう聖霊,ウパニシャッド哲学のアートマンなどがそれである。一方,霊魂には身体や事物を基盤としてそこに自由に出入する機能があるとみなされてきた。一般に精霊や生霊や死霊と呼ばれる存在がそれである。この考えは未開宗教や古代宗教において多くみられ,E. B.タイラーによると,とくに未開人はこのような霊魂(アニマ)の存在によって夢や幻覚や失神や死の現象を説明しようとしたのだという。また,それらの遊離し漂泊する精霊や生霊を操作したり駆使したりすることによって,治病や託宣や呪詛を行う呪術・宗教的な職能者もあらわれた。

 

 霊魂の考え方には,東南アジアなど多くの民族にみられるように複霊観をとる場合があるが,中国の魂魄観などもそれである。さらに遊離した霊魂が鳥の姿をとるという鳥霊魂の信仰もひろく世界に分布しており,エジプトの墓に描かれている鳥(バー),あるいは日本の神話で日本武(やまとたける)尊が死後白鳥になったという話などはその一例である。ところで仏教は原則として,その無我説の立場から霊魂の存在を説かなかったが,浄土教思想の勃興とともに,死後における往生の主体の問題が提起され,それをめぐってやがて霊魂の存在を暗に認める立場をとるようになった。日本では古く霊魂のことを〈たま〉といい,〈たまふり〉や〈たましずめ〉などの鎮魂儀礼が重要視された。それは遊離しやすい状態の〈たま〉を身体につなぎとめるための呪術であったが,他方,遊離した〈たま〉はときに怨念を含む御霊(ごりよう)や物の怪(け)に変貌して,生きている者に危害を加えると信じられた。また〈たま〉は最高の形態としては神霊を意味し,祈願・供養の対象として崇拝された。一般に日本では,人の死後,その死霊は祖霊を経て神霊になるという観念が強く抱かれてきた。不浄の霊(荒魂(あらみたま))から清浄な霊(和霊(にぎみたま))への浄化の過程が意識されたのであり,そこに日本人の間に根強い祖先崇拝の基盤があるといえよう。⇒アニミズム‖心       山折 哲雄

 

 

§コラム【霊魂の行方――超心理学における死後生存仮説】

古来,世界各地で,人間の死後には霊魂が残り,生き続けるという信仰が見られるが,それを科学的に検証しようとする試みが起こったのは比較的最近のことで,イギリスにおける心霊研究協会の設立(1882)に端を発していると言える。当時欧米で流行していた交霊会で霊媒が起こす心霊現象を手がかりに死後生存を証明しようとする研究者の中には著名な学者も少なくなかったが,死後生存仮説にある程度そったデータは得られたものの,批判者を納得させるだけの結果は得られなかった。その後現在に至るまで,死後生存を証明しようとする超心理学的な研究は決して少なくないが,1950年代に,現存のあらゆる人間や事物が情報源になりうるとする〈超 ESP 仮説〉という,死後生存仮説の強力な対抗仮説が登場したこともあって,精力的な研究が続けられてはいるものの,死後生存の証明はきわめて難しいこととされている。

 現在,超心理学の中での死後生存の研究には,霊媒現象 mediumship,霊姿体験 apparition,肉体離脱体験 out‐of‐body experience,前世記憶reincarnation memory,臨終時体験 deathbedobservation,ポルターガイスト現象 Poltergeistphenomena の研究などがある。このうちポルターガイスト現象は,生存中の発動者 agent が確定できない一部の例を除いては,念動による現象と考えられるようになっている。霊媒現象に関しては,特に,死者との交信と思われる現象の研究が死後生存の証明として有力であると考えられているが,超 ESP 仮説を棄却しうる証拠は得られていない。霊媒現象や霊姿体験の研究では,従来からの記述的研究法以外に,最近,主観的な判断をある基準をもとにあえて得点化し,それを統計的に処理して,意味のある結果が得られたかどうかにより,そうした現象や体験が事実であるかどうかを検討しようとする試みが行われるようになってきた。肉体離脱体験は,昔から死後生存の有力な証拠とされてきたもので,偶発的ないし意図的に,肉体から自己の一部が抜け出し,自身の肉体を外部からながめたり,遠方に出かけ,そこで起こっている現象を正しく報告したりする体験であるが,その生理学的な研究によると,夢見の状態と生理学的には区別がつけがたいとするものが多く,この現象は,夢見に近い体験に超感覚的知覚が加わったものなのか,あるいは事実人間の一部が肉体を抜け出すものなのか判断しがたい。前世記憶という現象は,昔から知られている生れかわりという信仰と関連する現象である。中には催眠により年齢を行させてこの種の記憶と思われるものを誘発させたものもあるが,多くは幼少期に自発的に語られる偶発的な現象である。アメリカ,バージニア大学のスティーブンソン IanStevenson は,生れかわりを思わせる事例を,東南アジアを中心に世界各地から2000例近く収集し,それに厳密な検討を加えている。前世記憶例の中には,習ったはずのない言語を話す異言現象 xenoglossis が見られるものもある。臨終時体験とは,間でよく聞かれる,人間が死ぬ間際に,すでに死亡している近親者を見るなどの体験である。アメリカ心霊研究協会のオシス KarlisOsis らの研究によれば,インドとアメリカという異質な文化圏でほぼ同質の現象が見られたという。生者の中に発動者が特定できないポルターガイスト現象は,ポルターガイスト現象全体の何割かを占めているが,死後生存研究としてのこの方面の研究の難点は,その現象が死者によるものであるという,死後生存の証明にかかわる点の実証がきわめて困難なことである。     笠原 敏雄

 

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