民主党政策研究プロジェクト

                     平成11年4月6日

■ 鼎談

《出席者》

プロジェクトチーム座長   岩井國臣参院議員

プロジェクトチーム座長   安倍晋三衆院議員

プロジェクトチーム事務局長 山本一太参院議員

(前文)

 日本再生のために、わが自由民主党は何をなし、いかにあるべきか――それを検討する第一段階として、民主党の基本理念および政策を研究してきた民主党政策研究プロジェクトチーム」は、民主党の「安全保障政策」と同党が掲げる「市民概念」についての中間報告をまとめた。そこで明らかになったのは、拠って立つ基盤の欠落、基本的政策の中の矛盾と一貫性の欠如、さらには党としての脆弱さであった。チームの中心となって、とりまとめにあたってきた安倍晋三衆院議員と岩井國臣参院議員の両座長、事務局長の山本一太参院議員に、民主党の「実像」を話し合ってもらった。

--------------------------------------------------------

(本文)

岩井國臣  民主党は「市民中心型社会」を目指すとし、自立した市民すなわち戦後世代を中心とした市民のネットワークを確立すると言っています。しかし、政治意識が高いとするそのような市民とは、すなわち市民運動をしている人たちです。既存の枠を超えた「地球市民」と言っていますが、国家や地域、あるいはふるさとへの帰属意識が希薄な人たちということになります。歴史や伝統・文化を大切にしない思想は、極めて危うい思想と言えるでしょう。

山本一太  政党として求められる国家観、歴史観が欠如しているということです。政策綱領を見ると、国境を越えた地球市民によるネットワークなどというSFチックな非現実論です。市民と言う言葉ですが、大事なことは誰が市民かということです。民主党が言う市民とは彼らから見て“政治意識の高い人”ということになりますが、これは国民のある部分だけ選び出して相手にする、言ってみれば「排除の論理」です。

安倍晋三  価値観がどんどん多様化しています。その中で、私たちの気持ちの拠り所とは何かということを考えたとき、伝統や歴史がきちっとあるわけですから、そこに基本を据えていくべきです。人としての誇りがそこにあるのではないでしょうか。わが党はそうした考え方に共感する人の集まり、一方、民主党は国家としての「芯」などない方がいいと言う人が多いのではないか。とらえどころのない国家観であり、政党であると言わざるを得ないでしょう。自民党と民主党との、政党としての基本的な姿勢の違いであると思います。

岩井  良く見なければ違いは分からないかもしれない。その時の物指というか基準が、国家意識であり、伝統、文化であるでしょう。教育の問題でも、 自立した青少年の育成が大切と民主党は言っていますが、国家や地域、共同社会あっての個人という視点が抜け落ちています。そうしたものとのつながりを大事にして教えていくことが、まず必要なのではないでしょうかそうでないと本当の意味の自立はあり得ない。

山本 政党としてのそうした立脚点の相違から、民主党と自民党との基本的な考え方の違いが出てきているのだと思います。そこで、私たちが民主党の問題を考え議論したとき、三つのポイントがあがりました。一つは政策の矛盾であり、一貫性のなさ、そして党としてのまとまりのなさです。二つ目は政党としての政策立案・決定のプロセス、仕組みがきちんとしていないということです。政党としての体をなしていない。三番目は党の“顔”である菅直人代表、鳩山由紀夫幹事長代理にわが国を引っ張って行く政治的リーダーシップがあるだろうか、という点でした。

安倍 一点目に関しては、党の理論、党としての方向がまるで分からないということがあります。国会では今、ガイドライン関連法案の審議をしていますが、ある議員は賛成の立場から「これだけでは十分に機能しない」と言い、違う議員は「戦争巻き込まれ法案だ」と言って反対する。二人とも民主党の人ですよ。二点目の問題でもあるのですが、政策問題に党としてきちんと議論していない。いや、できないのではないでしょうか。徹底的な党内論議をしたなら、党としての基盤が崩壊してしまうことを恐れてのことだとしか考えられません。政党の責務は国民の生命財産を守るということであり、安全保障というのは基本中の基本です。それすら、党としての考えがバラバラというのでは、もはや政党としての存在意義も疑われてきます。

山本 安全保障については、主張はなし崩しに変遷してきています。鳩山氏が提唱し、後に削られた「米軍の常時駐留なき安保」政策についても、フィーリングで採用したにすぎない。この考えを言い出した人がその前提とした集団的自衛権の行使はどうするのかなどには、きちんと答えてはいない。政策立案・研究能力がないということの証明です。菅代表が言う世界政府も現実離れした構想でしかありません。

岩井  文化、歴史というのは国の支柱、中心となる柱です。それがないから、民主党はぐらぐらして、収拾がつかなくなる。自民党は様々な意見や考えが出てきてもそうはならない。

安倍 規制緩和についても、民主党は経済政策の面での自由化を主張し、規制撤廃を言います。しかし、それがもたらす問題には思いが至らない。いま、まさに中心市街地の衰退が、地域の中の助け合いなどといったものを喪失させています。政策から「現場の目」「生活のにおい」が落ちているのではないでしょうか。

山本 先日の参院本会議で、ある民主党議員が農業基本法案について専ら消費者の側から質問し、最後に生産者の立場に言及しました。農村票を意識したからでしょう。だが、そのために論旨がまとまらなくなってしまった。あれもこれも、耳に快いことを言おうとする、そして言いっ放し。そもそも、農村に行き、農家の人たちの生の声を聞いたことなどないのではないかと思ってしまいます。

安倍 同じ党員なのに言うことがバラバラ、党内の組織によっても基本的な姿勢に矛盾があります。旧社会党系議員による総務会と保守系若手議員が多くを占める政策調査会では、憲法問題などで正反対と言っていいくらいの違いがあります。党の最高意思決定機関は、一体どこなのかということになってしまいます。

岩井  党としての芯がないということですね。この国はどうあるべきか、どうすべきかという、政党としての原点が定まっていないということに尽きるのではないでしょうか。

山本 安全保障や経済・金融などの問題について、自民党は党内で激しい議論をする。それが党の活力になり、しかも、その激論を咀嚼(そしゃく)し消化するシステムがあります。民主党はイメージで政治を語り、政策を決めている。実際に蚕を見て、あるいは農作業でも漁業でも、働く人たちの声、姿にふれることが政治の出発点であることを忘れてはならないでしょう。

安倍 自民党にも、いわゆる左から右まである程度幅があります。例えば日の丸、君が代の問題でも、これをを法制化すべしと言い、学校でも掲揚・斉唱を義務化すべしと言う考えから、尊重するということでいいのではないかという意見まである。だが、その幅には自ずと限度があります。その点が民主党との大きな違いと言えるでしょう。

山本 しかし、さきの参院選では都市部において、わが党をしのぐ支持を集めたという事実は謙虚に受け止めなくてはならない。自己改革、透明性の徹底、そして分かりやすい政治というものを、私たちは進めていかなくてはなりません。

安倍 ただし、民主党は、テレビのワイドショー的な存在です。視聴率の取れるテーマを追いかけるように、受けそうな政策をならべる。しかし、自民党はそうではありません。良質のドキュメンタリー番組を作り、あくまで中身で勝負していく。もちろん、視聴率なんかどうでもいいというわけにはいきませんから、一所懸命説明し理解を求めていくのは当然ですが。

岩井  民主党がいう市民は市民運動家であって、いわゆる地域住民とは違います。かれらの地域活動には見習うべき点がありますが、われわれは、民主党の言う排除の論理ではく、いろんな団体、いろんな人たちが緩やかにつながったいわゆるリージョナルコンプレックスを作っていかなければならない。誰でも仲間に入ることのできる地域活動に、もっと力を入れて取り組んでいくべきです。

山本 健全なネットワークということですね。その点で民主党は「バーチャル政党」だと申し上げたい。さまざま、民主党に対する批判を申してきましたが、私たちは決して言いっ放しにはしない。反論をいただければ、きちんと受けて立ち、議論を戦わしたいと思っています。

岩井  最後になりますが、二十一世紀のキーワードは「地域」ではないでしょうか。地域すなわちふるさと意識を原点とする政策を展開して行きたいと考えています。

安倍 政党としての大きな責務といいますか義務と言いますか、それはお互いに政策基本理念、目指すところのものを打ち出し、違いを国民の前にはっきりと示す。そして、相互に指摘し批判しあって行くことではないかと思います。今回のこの中間まとめが、野党第一党であり、われわれの最大のライバルである民主党と、そうした関係を創って行くことにもなれば、と思っています。

 

Iwai-Kuniomi